リア充じゃん ※
目が覚めると見覚えのある天井。
床にはエレノアが寝ている。
そう言えば俺はハウンドに負けたのだ。
服を脱いでみると、背中が食いちぎられたように破られている。
俺の着ていた鎧も丁寧に置かれているが、ヘルムは欠け、体の部分も本当にボロボロだ。
まあ、よくもこんなにもってくれた。
ハウンドが一匹いたと思うのだが、エレノアが倒したのだろうか?
初戦で死にかけて、奴隷に助けられる。
なんてかっこいい主人なのだろうか?
もう、エレノアを解放してもいいほどの活躍だろう。
だが、お金を還元したらと考えていたし、今解放すれば俺への利益は出ない。
命はお金では買えないが、奴隷の主人である俺がそれを言うのもおかしな話だ。
俺は人の命を平気で買ったのだ。
奴隷は人ではなくもの。
確かにこれはとてもいい言葉だ。
俺の命はいくらだろうか?
この世界で俺を必要としている人間はもういない。
死ねば、没入型のゲームでした。
なんてことが...。
考え始めたらきりがない。
とりあえず床で寝ているエレノアを持ち上げベットに寝かせる。
水がたらいに張ってある。
宿屋の主人だろうか?
そうなら机と言い、頭が上がらないな。
外を見ると月が出ていた。
手を伸ばせば触れそうな高さだ。
この村でエレノアを解放するより、オウリス王国で解放したほうがエレノアのためになるはずだ。
そんな言い訳が頭に浮かぶ。
俺はエレノアが居なければ間違いなく死んでいただろう。
が、よくよく考えれば、俺が死ねばエレノア自身も死んでしまうと考えて戻ってきたのではないだろうか?
エレノアには外傷は見受けられない。
鎧も少し傷はあるが、まだ綺麗だろう。
エレノアは上位種を倒したのだろうか?
はぁ。もっと強くなりたいなぁ。
服を綺麗なものに着替えて床に横になる。
また、自然と目が覚めた。
まあ、結構な時間寝ていたのだから当たり前だろうか?
外は少しだけ明るい。
顔を洗って戻ってきた。
「ステータス」
そう言えばレベルが上がっていた気がするのだ。
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【勇者】
境本 幸多朗
LV 7
EXP 2129/2500
SP 231
HP 40/40
MP 26/26
STR 30
ATK 30
VIT 25
DEF 21
INT 18
RES 16
DEX 18
AGI 25
LUK 5
スキル
地属性の適正Ⅰ LV4
獲得経験値増加 LV1
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まあ、いつも通りほんのすこしだけ上がっている。
何か規則性でもあるのだろうか?
まあ、そんなことが分かったところで大きな影響はないだろうが。
習得可能スキルを眺めるも地属性の適正Ⅱはない。
レベル5、もしくは10。何なら15で習得可能とかだろうか?
いや、早々に見切りをつけるべきか?
SPは231ある。
まあ、地属性の適正の力を見てからでもいいだろうか?
それよりも鎧だ。
また現実逃避していた。
鍛冶師に提案された額を思い出そうとするだけでも億劫だ。
「おはようございます!」
振り向くと笑顔のエレノアがいた。
「おはようエレノア。助けに来てくれてありがとう。」
「いえ、私は当然のことをしたというか...。指示は無視してしまったのですが...。すみません。」
「いや、エレノアのおかげで俺はまだ生きているんだ。ほんとうに助かったよ。」
「いえ、私は確かにコウタロウ様の元に行きましたが、ハウンドの上位種を倒したのは勇者だと名乗るパーティでした。」
「勇者?」
「はい、確か、クリハラ様とタチバナ様と言う名前だったと思います。」
「そうか...。まあ、エレノアがいなかったら勇者が来る前に俺は殺されていたんだろ?ありがとう。」
栗原と橘だろうか?二人とも確かSクラスだったはずだ。
「いえ、お役に立ててよかったです。」
「勇者は今この村に?」
「いらっしゃると思います。」
接触を避けるために動かないべきだろうか?
「あの...。」
「どうした?」
「コウタロウ様は勇者様とお知り合いですか?」
「まあ...そうだな。関係は微妙だが。」
「そうなんですね。」
そう言うとエレノアはじっとこちらを見ている。
「ど、どうかしたか?」
「いえ、もうお身体は大丈夫ですか?」
「ああ。痛みもない。ばっちりだよ。」
「申し訳ありません。」
「どうして謝るんだ?」
俯いたエレノアの顔から涙がこぼれるのが見えた。
「コウタロウ様は魔法の規模から考えて、コウタロウ様は明らかに魔術師ですよね?私がハウンドの気を引いてればコウタロウ様は、お怪我を、勝てたかもしれないのに...。」
「ちょっと待ってくれ、俺は魔術師じゃなくて、あえて言うのなら剣士だ。」
「え?」
「得意なのはどちらかと言えば近接戦だよ。」
「そうなのですか?」
「ああ。ハウンドに後れを取ったのは俺のミスなんだ。」
エレノアの震える瞳が俺の視線とぶつかる。
自然に慰めてやれればいいのだが、あいにく俺にはそういった経験はない。
エレノアに伸ばそうとした手を戻す。
この手でエレノアの頭でもなでるのだろうか?
俺が?
それで喜ぶのは俺だけだ。
「エレノアのせいじゃないよ。」
たらいに水を生み出し、エレノアに渡す。
「ごはん食べに行こうか。」
エレノアは少し赤くなった目で笑った。
「はい!」
そう言えばこの前行ったあの店はなんという名前だっただろうか?
この前、そう自然と思ったが、エレノアに聞くと俺は1日以上眠っていたわけではないとのことだった。
この前と思った食事は昨日の朝のことだ。
もう、ずっと前のことのように感じる。
死にかけるという体験は非常にくるものがある。
疲労も恐怖も。
今の俺には充実しているという言葉が当てはまるのだろうか?
こんな充実の仕方は止めて欲しいが。




