とらいあんぐるあたっく!!
エレノアに出した指示は村に全力で戻るようにだったはずだ。
もしかしたら体力が尽きても走るのだろうか?
まあ、そんなこと考えていられる状況でもないが。
剣でハウンドを受け流そうと構える。
思ったよりもかなり重い。
上手く受け流せずよろめく。
後ろから緑色の爪が迫る。
「なんっで緑だよ!」
剣を体に引き寄せ爪を防ぐ。
「は?」
鎧に浅い爪痕が入る。
魔法?いや、スキル?
どちらでもいいが、鎧がなかったら肌が切れていたということだろうか?
勘弁してくれ。
囲まれないように下がるが、それでも囲まれる。
爪や牙が絶え間なく一定のペースで攻撃を繰り返してくる。
そのため、距離をとることもできない。
なんで一定のペースで攻撃してくるんだ?
だがこれが続くならもうしばらくは粘れる。
それに攻撃そのものは見えるのだ、慣れさえすれば攻撃の糸口は見えるはずだ。
そう思ってた時期が俺にもありました。
そりゃそうだ、慣れるのは俺だけじゃない。
全面なら盾と剣で何とか防げるが、ヘルムの視界の悪さとハウンドの素早さ、その上三体だ。
致命的な攻撃は今のところもらっていないが、明らかに押されている。
魔法を使わないのは魔力切れだろうか?
それともこちらが疲労した確実なタイミングを狙っているのだろうか?
向かってくる爪を受け流し、態勢を崩したところに剣を入れようとするがもう一匹がカバーするように攻撃してくる。
避けれない。
右腕に噛みつかれる。
「グ、クッソがぁ!」
振りほどこうとした時に左腕に噛みつかれる。
右腕に噛みつかれたときに右のハウンドに意識を持っていかれた。
完全に失敗した。
両側から引っ張られて...、もう一匹はどこにいる?
後ろから風が集まるような音が聞こえる。
焦って逃げようとするが両側に凄まじい力で噛みつかれた状態で引っ張られ全く動かない。
やばいやばいやばい。
牙が鎧を突き破り牙が刺さる。
体は思考に反して強張る。
「アッ...グ。」
ゴキっという何かが折れたような音が体の中から聞こえる。
バカみたいな強さで背中を吹き飛ばされ胸が先行するような形で足が地面から浮き、地面に叩きつけられる。
早く立たないと。
だが右腕に力が入らなかったせいでこける。
「逃げないと...。いっだ...い。」
足に噛みつかれたのだろう。
もう一匹が背中に乗ってくる。
一匹でも殺す!
短剣を動く左手で抜きつつを体を捻り、逆手で振りかぶる。
が堅い毛皮によって刺さらず、あっけなく短剣は折れた。
そう言えば上位種は堅いんだったな。
「くっそ...。」
ハウンドによって地面に腕を叩きつけられる。
肉が抉られ貪られる。
体力が減っていく。
魔力はまだ残っている。
そうだ。
スキルを。
神様からもらった恩恵、地属性を死ぬ前に信じてみようか。
スキル【地属性の適正Ⅰ】をレベルアップさせる。
ぐちゃぐちゃと俺を喰う音が俺の体を伝って直接聞こえる。
頭がおかしくなりそうだ。
SP400でレベルが二つ上がり、今地属性の適正ⅠはLv4だ。
死ねよ犬っころ。
もう声さえ出ない。ハウンドは俺が動かなくなったのが原因か、食事中なのが原因かは知らないが完全に油断している。
俺は助からないだろう。
だが、お前らも道連れだ。
地面に突っ伏した状態でとにかく地面に魔力を集中させる。
もう感覚も鈍りだしている。
ハウンドが隣にいる奴以外どこにいるか正確にわからない。
とにかく刺し殺す。
それだけを意識してめいっぱい俺を中心に円柱状に地面を隆起させる。
魔力が一気に抜けていく。
地面から盛り上がる音がして何本かが何かに刺さったような感じがする。
そしてすぐ、祝音が頭の中で響く。
俺の腹付近にも刺さったのだろうか?
腹にも少し違和感があるような気がする。
だが、レベルアップも自傷行為も、もうそんなことはどうでもいいことだ。
だって残念ながら俺の横にいるハウンドには刺さらず、元気だったからな。
ハウンドが激昂したように距離を取り遠吠えをあげた後、ウィンドだろうか?
ハウンドの大きく開けた口の前に魔法陣が輝く。
他に音はしない。2匹は倒したのだろうか?
おしかったなぁ。
俺を囲むように土を隆起させれば何かが違っただろうか?
何にせよ早めにスキルを習得しておくべきだったなぁ。
かっこわりぃ。
死んだら終わりだってのに...。
俺なら全然やれるって思いこんでいた。
スキルだって何か習得していれば逃げ切れたかもしれない。
後悔ばっかりだ。
エレノアは俺の死体を見てなんと思うだろうか?。
こんなことなら浅沼や木ノ下、宮田たちと一緒にいればよかった。
嫌だ、まだ、死にたくない。
誰か。
視界が霞む。
疲れで目が閉じようとしているのか、それとも泣いているのかもうわからない。
「コウタロウ様をそれ以上傷つけるなああああああああ」
視界に鮮血が映り込む。
命令は聞かない。死ぬ直前の人間に希望を持たせる、本当に悪い奴隷だ。
だが、心が温かくなる。
まるでヒーローだ。
もう体に力は入らない。
俺の意識はどこまでも落ちていく。




