邪神
「どうだいこの完成度は!原子から分子を構築するところから始め、隅々まで寸分違うことなく仕上げたこの肉体!スリーサイズはもちろんのこと、毛根の数まで同じさ!もちろんここは君と同じツルツルさ!」
ふざけたことを抜かす、この私の姿を模した“何か”の顔面に殴りかかったものの、相変わらず返ってくるのは霞のような手応えばかり。
このイライラはどうしてくれようか。
「フフフ、自分と同じ顔だというのに全く躊躇がないねぇ。表情もまるで変わらないし。表情筋生きてる?せっかく可愛い顔してるのに、無表情ばかりなんてもったいないよ?やっぱり美少女は笑顔じゃないと、こんなふうに。」
そう言ってその“何か”は、私と全く同じ顔の表情を変化させた。
それは、白目を向いて口をだらしなく半開きにさせた、薄い本で白濁液まみれの女性達がよくしているような表情。健全な青少年達には決して見せられないタイプの表情。しかもダブルピースでのオマケ付き。
「私の顔で何しとんじゃワレェ!」
「ハハハ、君、顔が真っ赤だよ?相変わらず無表情だけど。ほら、僕を見習って笑顔笑顔。」
「それは笑顔とは言わない!」
「そうかい?じゃあ、がに股でちょっと腰を落として…」
「ポーズの問題じゃない!というかそれ以上私の体で卑猥な行為をするなあ!」
くっ、やめさせたいのに触れないからどうすることも出来ない。できることと言えば、こうして怒声を浴びせることくらい。実質ほとんど見ているだけだ。
まさか私が、壊せないことで悩む日がくるとは。こんなくだらないことで。
というかほんとにこいつはなんなんだ。まさか、こんなのが神様とは言わないよな?
「こんなのとは、ひどい言い草だね!だけど残念。私が神さ!まあ、神は神でも邪神だけどね!」
「…」
邪神ね。それにしても、仮にも神を名乗るならもっと威厳とかそういうのがあっても良いと思うんだが。
「神にそんなもの求めても無駄だよ。神なんて結局、ちょっと色々できてちょっと賢いだけの存在だよ。今回君を喚んだのだって、道楽のためなんだから。」
「道楽?」
ようやく本題に関することを聞けたと思ったら、道楽って。
「そうそう。他の神々が集まってなんか面白い催し物をしててね。それに私も参加することにしたんだよ。」
詳しく聞いてみると数年前、何人もの神々が集まってデスゲーム運営を始めたらしい。
いくつも存在する似通った世界から拐ってきた地球の日本人に、異能をわたして戦わせているんだとか。
「しかもね。スカウトしてきた人間が活躍すると、他の神にでかい顔できるのさ。」
「…代理戦争?」
「そういうことだね。」
つまり私は、この変態がでかい顔するためにタダ働きしなければならないと。…気が進まないなぁ。