プロローグ
人混み特有のざわめきを間近に感じ、目を覚ます。
…おかしい。昨夜はちゃんと家で寝たはずなのだが。
寝てる間に誰かに運び出された?そんな馬鹿な。そんなことされたら、さすがに起きる。
まあ、ともかく考えを巡らしていても仕方ない。状況確認をしよう。
今いる場所は、どうやらかなり広い空間らしい。…この時点で家にいるという可能性は潰えた。
最初は屋外かと思ったが、空気の流れや光の加減がどうも違う。なにかしらの建物の中と見て良いだろう。
周囲にいる人達の中に誰か詳しい事情を把握している人がいないか耳をすましてみたところ、聞こえてくるのはほとんどが戸惑いの声ばかり。一部怒号が聞こえるが、どちらにしろ役に立たなさそうなので無視する。
ここに集っている人達は、性別も年代もばらばら。下は小学校低学年から、上は還暦を迎えたくらい。
人数は千は下らない。もしかすると万に届くかもしれない。
姫貴祇 毬菜
それが私、一人の女子高生の名前だ。
今は下校中。今日も学校があった。勉強は嫌いという程では無いけれど、得意でもない。テストはいつも平均点ぐらい。まあ、取ろうと思えば9割は余裕なんだけれど、それはズルの類いなのでやらない。
人付き合いは苦手だ。誰も、私と同じ世界が見れないから、聞こえないから。
だから私は、空想の世界が好きだ。特に、ファンタジーの世界が。魔法があって、超能力があって、不思議な生き物がいて、理外の技術を使う武術家なんかがいる。
そこになら、私と同じ世界を見ている人がいるんじゃないか、私と思いっきり遊べる子がいるんじゃないか。そう思うから
「ん?、なにこれ?」
アパートに着いてポストの中身を探ると、一枚の折り畳まれた紙が。
「デスゲーム参加アンケート?」
そこには、デスゲーム参加アンケートと書かれていた。
開いてみると、そこには全部で八個の質問が。
=================
~デスゲーム参加アンケート~
〇あなたは特殊な力が欲しいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
〇あなたは強くなりたいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
〇あなたは大金が欲しいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
〇あなたは人を殺したいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
〇あなたは命をかけてでも何かを手に入れたいと思ったことがありますか?
はい/いいえ
〇あなたは血沸き肉踊る熱き戦いを求めたことはありますか?
はい/いいえ
〇あなたは平凡な日常ではなく、刺激的な非日常をを求めたことはありますか?
はい/いいえ
〇あなたはデスゲームに参加したいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
=================
「ほんとなにこれ」
わけが分からない。誰かのイタズラ?デスゲームって何?
自慢じゃないが、こんなイタズラをしかけてくるような知り合いは、私にはいない。
「まあ、答えてあげてもいいか。」
幸いというべきか、今日は宿題も少ない。最近読んでたラノベも、昨日完結まで読んだところだ。暇つぶしにはちょうどいいかもしれない。
部屋に入り、諸々の仕度を済ませてから、あのアンケートに向き直る。
「デスゲーム参加アンケートねぇ」
そこはかとなく妙な予感がしないでもない。
でもまあ、
「そのときはそのときか」
一つずつ、質問に答えていく。
〇あなたは特殊な力が欲しいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
この、“特殊な力”というのは、俗に言う超能力的な物であっているのだろうか。だとするなら、私の答えは『はい』だ。
人に見えない物、聞こえない音が聞こえる私ではあるけれど、こういった物を求めたことぐらいある。瞬間移動したい、透明人間になりたい、とかね。
〇あなたは強くなりたいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
これも『はい』。幼いころ、すぐに色んな物を壊してしまうことが多かった私にとって、人を傷一つつけることなく圧倒する曾祖父の“武”というものは、あこがれの対象だった。
確かあれが、曾祖父から古武術を習い始めたきっかけだったはず。おかげで小学校に上がるころには、過失で箸を握り折ることも誰かの手を握り潰すこともなくなった。
〇あなたは大金が欲しいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
これはもちろん『はい』だ。俗物?ほっとけ。
〇あなたは人を殺したいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
これは『いいえ』。刹那的にものすごくイラッと来たことはあっても、殺意まで抱いたことはなかったはず。
〇あなたは命をかけてでも何かを手に入れたいと思ったことがありますか?
はい/いいえ
これも『いいえ』。生憎、そんな漫画みたいな状況に陥ったことはない。
〇あなたは血沸き肉踊る熱き戦いを求めたことはありますか?
はい/いいえ
どこの戦闘民族ですかとか言いたくなるような質問だが、残念なことにこの質問に対する私の答えは「はい」だ。
7才で、曾祖父に負けなくなってからだろうか。私は、自分の“本気”を受け止めてくれる相手との邂逅を求めていた。全力で殺しにかかっても、壊れない相手。まあ、そんな相手が現れるわけがないのだけれど。
〇あなたは平凡な日常ではなく、刺激的な非日常をを求めたことはありますか?
はい/いいえ
これは言うまでもなく『はい』。というか、さっきの質問と若干被って無いだろうか。
〇あなたはデスゲームに参加したいと思ったことはありますか?
はい/いいえ
「デスゲーム、かぁ。」
たぶんこれは、漫画などで良くあるアレだろう。異世界や仮想空間、特殊な施設などで行われる命をかけた催しもの。
微妙に迷ったけれど、この質問に対する私の答えは「いいえ」だ。単純な戦闘による殺し合いならともかく、ボードゲームみたいな頭脳戦を強いられるモノや、ロシアンルーレットみたいな運が絡むデスゲームなら私は願い下げだ。そもそも私は死にたいわけでは無いし。
「これでいいかな?」
他に書き込むような項目もない。ベタな感じに、端っこの方に見えないぐらい小さな文字で何かを書いてたりもしない。
紙だって、何か特殊な仕掛けが施してあるようには見えない。たぶん、何の変哲もないただの紙だ。さて、どうしたものか。
このアンケート用紙は、私のポストにそのまま放り込まれていたものだ。だから、誰がどんな目的でこんな物を作ったのか全くわからない。だからアンケートの回答を誰に見せればいいのか、どこに送ればいいのかももちろんわからない。
ちなみにアンケート用紙には、アンケートの題名と質問しか書かれていない。
このアンケートの送り主、どうやって回収するつもりなんだろうか。
「やっぱただのイタズラだったのかなぁ」
あまり期待してなかったとはいえ、少しがっかりする。
まあ、現実なんてこんなもん。
物語の中みたいなことなんて、まず起こり得ないのだから。
そんなことを私が思っていると
───パリン───
唐突に、世界が割れた。