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短編コメディ

転生勇者と転生勇者の対決『めがしんぼ』

作者: NOMAR


「最近の勇者はツマランな……」


 女神様が退屈そうな顔でそう仰いました。

 ここは天界、雲の上。この世界をお造りになった女神様は、飽きた顔をしてらっしゃいます。

 まぁ、長く地上の様々なものを見続けてきた女神様。そこにあるものは女神様の造った物。女神様も自らお造りになった物に、愛着もありますが、そこに創造者の想像を越えるものはなかなかありません。

 そんな女神様の予想を越えて、驚かせたり楽しませたりできるものはなかなか無く、女神様は退屈を覚えておられます。

 い並ぶ天使達は、さてどうしたものか、と悩む中で、一人の若い天使が前に出ます。


「では、俺が新たな勇者を連れて来ましょう」


 その若い天使は自信に溢れた顔で、堂々と女神様に言いました。

 ここしばらく、女神様を楽しませる為に他所の世界から人を連れてくる、ということをたまにしております。

 まるで違う世界の住人、この異世界人の起こす騒動や混乱というのが女神様にも想像の埒外(らちがい)でして、この転生勇者とか転移勇者というのが、女神様をとても楽しませておりました。

 しかし、何度も繰り返していると飽きが来るもの。女神様はこれまでに無いものを求めております。

 女神様が、ふうん? と天使を見下ろします。若い天使は薄く微笑みます。


「一ヶ月お待ち下さい。俺が本物の勇者というものを女神様にお見せしましょう」

「ふん、若造が」


 若い天使が言うことに不満げに鼻を鳴らした天使が前に出ます。


「お前の連れて来る勇者には品が無い」


 険しい顔の壮年の天使が若い天使に文句をつけます。若い天使は、またこのオッサンか、という顔で眉を顰めます。


「カイエル、俺のやり方に文句があるのか?」

「ヤマエル、お前には勇者というものが解っておらん」


 ケンカ腰で睨み会う二人の天使、カイエルとヤマエル。この二人はいつも仲が悪くて、顔を会わせるといがみあいます。それを女神様は、お、始まった、という顔でおもしろそうに見ています。

 壮年の天使、カイエルは手を広げて語ります。


「勇者とは、その信念で道を切り開き、その不屈の精神で道を歩み、その背を見る人に夢と希望を抱かせるもの」


 天使カイエルはキッと天使ヤマエルを睨みます。


「なのにヤマエル、お前の連れて来る勇者は、やれチートだ、やれハーレムだ、本筋を忘れてもふもふだ、スローライフだ、と府抜けた自分本意のものばかり。そんなものは勇者とは呼ばん」


 天使ヤマエルは呆れて見下ろすように反論します。


「そういうカイエルの勇者は、王道とか言いながらやってることはかつての名作の二番煎じか三番煎じ。出涸らしのお茶が美味しいなんて言うのは、ただの形骸にこだわってるだけだ。カイエルにはエンタメってものが解ってない。考えが古いんだよ」

「ではヤマエルの言う新しいエンタメは、しっかりと女神様を楽しませているのか? 途中で打ち切りばかりで、完結にも辿りつかん。出だしの目新しさと勢いだけで、浅い者を見せられてもそこに勇者の感動は無い」

「感動すればいいってもんでも無いだろう。最初に女神様に、なんだコイツは? と思わせるものが無ければ、女神様が興味をもつはずが無い。どれだけオチが良くても、そのオチまで引っ張れ無いだろうに」

「その場その時で受けるものだけ出して、一貫性も無いものに、魅力などあるものか。役者の練習のようなその場限りの芝居ばかりを繋げて、そこに女神様の心を動かす感動は無い」

「言ってくれるじゃないか。だったらカイエルは女神様を感動させられる勇者を連れて来られるっていうのか?」

「ふん、ヤマエルの連れて来る勇者よりはよほどマシな勇者を連れて来てやる」


 いつまでも言い合っていそうな二人の天使を、女神様が手を上げて止めます。


「ならば、二人とも勇者を連れて来るがいい」


 二人の天使は口を閉じ女神様を見上げます。女神様はウキウキとした様子で二人の天使に命じます。


「では期間は一ヶ月。カイエルとヤマエルは、これぞ勇者と言う者を一ヶ月後、私の前に連れて来るがいい」


 女神様は待ちきれぬという顔で嬉しそうに仰います。


「どちらが真の勇者か、私が味見して決めるとしよう、ふふふ……」


 天使ヤマエルと天使カイエルは互いににらみ合い、クルリと振り返ると翼を羽ばたかせて飛んでいきました。

 こうして、究極の勇者と至高の勇者の対決の幕が開きました。

 はあ、またですか? 毎回毎回、後始末する私の苦労も考えてはもらえないでしょうか? 女神様はジュルリと舌舐めずりしてワクワクしておられます。はあ……。


 女神様は仰いました。


「今回の悪役令嬢はツマランな……」


 天使カイエルの顔が青くなります。それを見下ろすように天使ヤマエルが口を開きます。


「ダメだな。この悪役令嬢は死んでいる。女神様、一ヶ月お待ち下さい。俺が本物の悪役令嬢というものを」


 またですか? テンドンですか? そういうのもういいですからー。

 天使カイエルはギロリと天使ヤマエルを睨みます。


「若造が、お前に悪役令嬢の何が解ると……」


 もう、ええっちゅーねん!


「ふふふ、では次は至高の悪役令嬢と究極の悪役令嬢の対決を」


 女神様! あんた本当に懲りませんね! 前回の勇者対決でもエライことになったでしょうが!


「どちらが真の悪役令嬢か、私が味見して決めるとしよう。ジュルリ」


 もう終わりっ! 終われっ!


 

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