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蒼鉛の悪魔  作者: 茉奈
2/2

[1-2]愛想のない悪魔

「おっはー!」

「あっ!…おはよー!」

 リョーコは自転車を私につけてきた。

「女神様古典の宿題やった?」

「へ?、伊勢物語の和訳?」

「そそ!写してもいい?あたしやってなくてさー」

「ま…いいけどさぁ」

「女神様あざますっ!」

 リョーコの快活な性格は心底うらやましい。無神経というか厚かましいというか。女バレのキャプテンで人望は厚いしルックスも「活発な女の子」って感じでいい。厚かましいけど。

「んじゃーアタシとっとと終わらせるから先行くわっ!」

「あっ!ちょっと待って!!」

「なっ、なに?」

「これ、お母さんが作りすぎたピロシキ、よかったら食べて?」

「おおおお!イリーナさんのピロシキやん!アタシこれめっちゃ好き!ありがとう!」

「はいはい。んじゃがんばってね!」

 リョーコはすれ違う友達に挨拶をしながら、颯爽と自転車のペダルを漕いで行った。

(私ももっと活発になるべきかなぁ)


 私が遅れて教室に入ると、リョーコが背の高い男子と話している。彼のアルトが空を揺さぶると、クラスの女子がひとり、またひとりと彼のほうを見る。間違いない。(スカウターで測れないほどのイケメン、だとっ…!)細身の体型に高い身長。色白な体の所々には、筋張って影のできる箇所がある。

「おっ!女神様ご降臨やっ!」

 リョーコは私を見て手を振ってきたので、しゃーなしだ、こちらも何本か指を動かす。そうして私がリョーコににじり寄ると、背の高い男子は、目の前のこの外人は誰だと聞いた。無論私のことであろう。

「ああ、女神様?この子はロシアと日本のハーフでな、エレーナって言うねん。髪長いし綺麗やからみんなそう呼んでんねん。」

「ふーん。そう。よろしく。メ・ガ・ミ・サ・マ・」

 彼は思ったより嫌味ったらしいのだろうか、強調して私を呼ぶ。

「じゃあ涼子、次のキャプ会までにその資料の書き込みしておいて。」

「了解っす先輩!」

 背の高い男子は、リョーコと話し終えるや否や部屋を出ていった。私はあまりの衝撃に度肝を抜かされた。というのも、比類なき彼の「愛想のなさ」にではない。彼のシャツにタグが付いていたからだ。おろしたてだったのだろうか、白シャツに白色のタグが垂れている。意外と天然なのね。しかしまあ、あの愛想のなさが気にならないわけでもない。

「リョーコ、あの人誰?」

「えっ?しらんの?斎藤先輩だよ?」

「さいと…う?」

「2年のめっちゃモテる先輩やて!男バレの副主将!ホンマに聞いたことない?」

「私そういう恋愛とかには疎くて…」

「損してるなぁ。綺麗やのに…」

 リョーコは溜息をふかーくついてこちらを覗く。

(何の溜息だよ。)

「でもな、先輩ー。いや、なんでもない。」

 私は、遠くを眺めて発言を留めるリョーコに、いぶかしげな表情を隠し得なかった。リョーコもあえてそれに突っ込んでこなかったのも考えると、何かあると見ていいだろう。だから私はこれ以上なにも言わないことにした。

「ところで宿題はできたの?」

「あ…」

「ピロシキは食べてるくせに。」

「まあ、それは・・・」

「まあいいや、とっととやりなさいよね」

「…はーい」

 側にあるノートやペンを中央に寄せる。言葉を詰まらせる。頭を垂らす。

「あ、あのさ。」

「…言いたいことあるんでしょ?彼の。」

「はっ。何でもお見通しなんやなぁ」

「あんたが分かりやすいだけよ。」

 リョーコはノートを写し始めた。

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