タマエ姉さんの一人漫才
「どうもー、みんなのアイドル、タマエちゃんでーす!」
ショーが終わったきり、何のアナウンスもないため客席がざわつき始めたところに、満面の笑みで小太りのニューハーフが登場した。
常連客は、その姿を見ただけで喜んで口笛を吹き、「待ってました!」と掛け声が飛ぶ。
「あら、やだ~。いくらアタシが美人でかわいいからって、そんなにがっついちゃだめよ~」
タマエが体をくねらせながら言うと、客席からは一斉に「おえ~」という合いの手が入った。お約束のリアクションである。
「ハイ、今ゲロしたやつ、後でちょっと楽屋来いよ、顔は覚えたからな!」
野太い地声でタマエが言うと、客席から「怖え~」という声と、笑い声があがった。
「そうそう、怖いっていえばね、この前、タマエすっごく怖いことがあったの!」
タマエは鮮やかに語り口を変え、裏声で喋る。
「夜中に急に目が覚めて、お手洗いに行きたくなっちゃったのね。タマエ、『やだな~、怖いな~』と思いながら、真っ暗な廊下を歩いたの」
ここで、少し溜める。
「そうしたら……」
客席から「鏡でも見たのか!」と、声が上がる。
「うるせえ!先にオチを言うんじゃねぇ!ハゲ!」
再びの地声に、客席はどっと沸き、拍手喝采に包まれた。
現在連載中の拙著『医大に受かったけど、親にニューハーフバレして勘当されたので、ショーパブで働いて学費稼ぐ。』の、舞台裏です。
この短編を読んで、興味を持っていただけたら、ぜひ本編も併せてご覧ください。