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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終末の拝み屋 1 

作者: あずびー

 なろうで書いている作品の息抜き気分で書きました。

どこにでもある物語ですが、読んでくれたら嬉しいです。

 薄暗い部屋。広さは学校の教室位だろうか、明度を落とした電灯が、三台の祭壇を照らす。

窓は全て分厚い黒いカーテンで閉じられ、外からの月光を遮っている。

祭壇の一台は部屋の前方に設けられ、後の二台は部屋の中央に設けられている。

中央に設けられた祭壇の上には、人形のように動かない人間が寝かされている。

薄く照らされるシルエットから、寝かされているのは女性のように思われた。

部屋の中には、無言で立ちつくす男達が、祭壇をを取り囲んでいる。

皆、虚ろな目で祭壇を見つめているだけで、声を上げる者はいない。

人が大勢いるのに、人の気配が感じられない。異様な空気が部屋の中を満たしている。

 「さぁー 順番にどうぞ」

薄暗い部屋で前方に設けられた祭壇の前で、白いローブを着た男が指示をだした。

最初の男が一つの祭壇に上り、寝かされている女性を凌辱していく。

片方の祭壇にも男が上り、女性の上に覆いかぶさる。しかし、こちらの女性は胸が小さく、身体も小さい。女性というよりも少女かもしれない。

次々と凌辱していく男達に対して二人の女性は、抵抗する風もなく、声も出さない。いや、出せない。

二人とも首が無い。

首が無い身体に、次々と男達が群がっていく。

死後硬直はまだ始まっていない。死して時間が経っていないのだ。

 「さぁー 神に召された巫女と繋がる事で、あなた達も神に近づけるのです」

祭壇の前で男が自分に酔うように血だらけの手を広げる。白いローブにも血が飛び散り、迷彩のような模様を描いているた。

前方の祭壇の上には二つの生首が並べられている。

一つは三十代位で、ショートの髪を薄く茶色に染めている。

もう一つは、あどけない顔に似合う黒髪を、ツインテールでまとめていた。

二人とも、目の前の光景を見たくないかのように、目を閉じている。

欲望を果たし、果てていく男達に変化が現れる。つのが頭に生える者、頬、額に角を生やす者。皆口が裂けていき、黒目が無くなり白目のみとなる。

変化へんげした男達は、さらなる変化を求めるように、祭壇に上がり女性の肉を喰らい始める。

まるで地獄の最下層のような光景だ。

       バーーーーーーーン!!!!

部屋の扉が勢いよく開けられ、僧侶の出で立ちをした男が入ってきた。

男はフラフラと祭壇の前に行くと、並べられている生首をみて茫然となった。

 「宥英ゆうえいか」

白いローブの男が、僧侶の名を呼んだ。

 「起衛きえい!!  貴様ーー!!」

憎悪の目で、宥英が白いローブの男、起衛を睨む。

 「宥英、この世界はもうすぐ終わる。だから新しい神が必要なんだよ」

起衛はさとすように宥英を見る。

 「貴様! 何を言っている!」

宥英が起衛に掴みかかった。しかし起衛はそれを軽く交わして、距離をとる。

 「新しい世界の為の神が必要なんだよ」

起衛は独り言のように呟いた。

二人が言い争う中でも、血だらけ二つの祭壇の上での地獄絵図は続く。

男達は、宥英と起衛が居ないものかのように、女性を喰らい続ける。

尋常ではない。男達は皆何かに憑りつかれたかのように、女体をむさぼり続ける。

 「おまえらーーー!!   涼子と香苗から離れろーー!」

宥英が妻と子の名を叫びながら、男達を蹴り飛ばしていく。しかし男達は蹴られようが、殴られようが執拗に女体へと向かう。

宥英は少し距離をとった男達の前で印を結びマントラを唱え始める。瞬時に指を切り替えて印を紡いでいく。

 「南無来召!!  曼荼羅オン・バサラダド・バン!!」

部屋中に閃光がはしる! 明滅を繰り返し、稲妻が部屋の中で龍のように暴れる。

閃光の中に神仏の姿が見え隠れする。如来、菩薩、明王、天部。

部屋の中に曼荼羅が描かれたかのような光景。いや、立体曼荼羅という異空間が部屋に重ねられたような光景というべきかもしれない。

やがて明滅が静かにとかれ、部屋の中に静寂と暗闇が訪れた。

窓のガラスは壊れ、カーテンの間から僅かに月明りが差し込んでくる。

角を生やしていた男達は皆、普通の人間の姿に戻っている。が全て息絶えていた。

起衛の姿は見えない。

宥英は起衛を探す事もなく、ふらふらと祭壇に歩み寄り、二つの生首を抱きしめ唇を噛んだ。

 「すまない、   ・・・涼子、香苗、  ・・・すまない」

宥英は二人を抱いたまま崩れ落ち泣き続けた。

嗚咽が静かに響く部屋に風が入り、女性と少女の髪を優しく揺らした。




 

 荒廃した世界。建物は崩れ、人々が賑わう景色もない。

第三次世界大戦。十年ほど前に、大国と小国の戦争を皮切りに世界大戦となり、核兵器が使われた。

小国が核弾頭を打ち込み、次々と各国が報復のやり合いとなり、世界が崩壊した。

しかし人類は滅びなかった。世界人口は恐らく三分の一以下になっただろうが、死滅していなかった。

そんな瓦礫だらけの地上で、男が仰向けになり星を眺めている。

ボロボロのジーンズ、昼間の直射日光を遮るためだろうか、いくつも継ぎ接ぎが施された上着を着て、静かに星を見る。

以前のような地上からの灯りが無いので、星が雄大に夜空を描く。

荒廃した世界でも電気が無いわけではない。自家発電で明かりを保つ集落もある。

どこから仕入れるのか、発電機に使う油を食料と交換する者もいる。

経済らしき物が、僅かだが回っている。

男は星空を見たまま動こうとしない。まるで、このまま死にたいと思っているように見える。いや、実際願っているのかもしれない。

男、宥英は静かに目を閉じた。いつもそうだ、目をつむると夢が宥英を誘い、眠りへと導く。

あの部屋での事を夢で見る事もあれば、妻と子と幸せに暮らしていた時の事も夢で見る。

今日は家族で何気ない夕食をとり、何気ない会話をしている夢を見ていた。

どれ位時間が過ぎただろうか、こめかみを伝う涙と、ふわりと降りて来た気配で目を覚ました。

目を開けると、星空をバックに、自分の顔を覗き込むように伺う少女と目が合った。

少女は時代に合わない綺麗なピンクのワンピースを着て、彼に無垢な笑顔を見せる。

 「香苗!」

宥英は瞬時に起き上がり、少女の肩を抱いた。

しかし少女は娘ではない。歳は十を過ぎた位で娘よりも幼い。髪がショートで茶色味がかっている。似ていないのだが、無垢な笑顔が香苗と重なる。

肩を抱かれた少女は驚く風もなく、宥英の腕をとり少し離れた所にある建物を指さした。

少女は彼の腕を引っ張り、建物の方へと足を進める。

宥英はデパートで、香苗におもちゃ売り場へと引っ張られた事を思い出した。

似ていないのに娘と重なる少女。宥英は抵抗する事なく建物の中に足を踏み入れた。

建物に入った途端に腕を掴まれている感触がなくなった。

建物の中は暗く、何も見えない。少女の気配も感じられない。

少し時間が経ち、夜が明けてきたのか、明り取りの窓から薄く入ってきた光が中を照らす。

何かの倉庫のような建物。学校の体育館位の大きさはある。

番号で仕切られた段ボール箱が建物内を埋めていた。

 「おや、新入りさんかい」

入口の方で声がした。宥英が振り返ると初老の男が立っている。

 「新入り?」

宥英は戸惑いながら男の方へと足を向ける。

 「あんたもピンクの天使に連れて来られたんだろ?」

男は人懐っこい笑顔を向けて、宥英に握手を求めた。

 「ピンクの天使?  あの少女の事か」

 「ハハハ、やっぱりピンクの服を着た少女に連れて来られたんだな」

男は加山かやまと名乗り、自分も少女に此処まで連れて来られたと話した。

此処は缶詰工場だった場所で、此処は缶詰の倉庫だとも説明してくれた。

 「ほれ、腹減っているだろう」

加山は段ボールから無造作に缶詰を取り出し、宥英に放り投げた。

 「あとは、これだ」

続いて缶切りとフォークをを手渡される。

 「ここの缶詰は缶切りがいるタイプでな、好きなだけたべな」

食料が貴重なこの時代、かなり気前の良い事である。宥英は少しいぶかしい表情で加山を見た。

 「ハハハ、毒なんか入ってねえよ。賞味期間は過ぎてるけどな」

加山も自分の分の缶詰を切りながら、この工場の中には畑もあり、被爆していない土で作物を作っていて、一つの集落のような物だと話してくれた。

 「ここには男女合わせて50人位いるかな、皆、ピンクの天使に助けられたのさ」

 「ピンクの天使か」

 「そう、皆、天使に助けられたから、食料を独占しようとは思わない」

 「そんなものかな」

 「そんなものだよ」

加山は再び人懐っこい笑顔を宥英に向けた。





 「加山さん!  大変だ!」

宥英が二つ目の缶詰を開けている時に、若い男が飛び込んできた。

 「翔ちゃん、どうしたの? 缶詰はまだ沢山あるよ」

慌てる風もなく加山は若い男、翔に缶詰を渡す。

 「缶詰じゃないよ、奴らが来た」

翔は宥英をチラ見して会釈をしたが、誰とは尋ねない。余程急いでいるのだろう。

 「奴らか・・・」

加山は真剣な面持ちを浮かべた。先程の人懐っこい笑顔を見せる男とは別人のようだ。

 「奴らとは何だ?」

宥英は缶詰を開ける手を止めずに加山に訊ねる。

 「新興宗教「獄迦宗ごっかしゅう」の、いけすかない連中だよ」

崩壊した世界、人々は宗教に頼る。その結果、怪し気な宗派が多数できていた。

宥英の缶詰を切る手が止まる。妻と娘の事を思い出してしまう。彼女等は起衛が作った新興宗教の巫女にされ、無残な殺され方をした。いや、生贄にされたのだ。

起衛とは共に修行をし、技を磨き合った仲。家族ぐるみの仲と言っても良かった。

しかし起衛は宥英達を裏切った。暗い過去、無残な思いが蘇る。

 「俺も行こう」

宥英は開けかけた缶詰を静かに置いた。

表に向かう途中で獄迦宗の目的を加山が話す。彼等は缶詰と畑の作物を寄付しろと迫っているらしい。

加山も分けるだけなら良いと言っているのだが、彼等は缶詰と畑を独占しようとしているのだという。

彼等に此処の設備を奪われたら、せっかくここまでの集落にした仲間と離れてしまう。ここで結婚して、子供を産んでいる仲間もいる。それに何より、ピンクの天使が連れて来る旅人に食料を渡せなくなるだろう。

 「奴らは手強いのか?」

 「ああ、教祖が役行者の再来とほざいていて、鬼人を出しやがる」

 「鬼人使いか、良く今まで無事だったな」

 「奴らも鬼を暴れさせて、缶詰と畑を無駄にしたくないのさ」

宥英達が表に出ると、強めの日差しが襲ってきた。原爆の打ち合いのせいか、昨日まで寒かったのに、行き成り日焼けするような紫外線に襲われる日になる事もある。

宥英が立ち入る時には気付かなかったが、工場の敷地には簡易な柵が設けてあり、出入りする門もあった。

門の向こうにバギータイプの車が一台、その左右に大きな人影が見える。

 「加山殿、返事を聞きにきたぞ」

バギーの運転席で黒い作務衣を着た男が優しそうな笑顔をみせている。獄迦宗の教祖、陣内宗次じんないそうじだ。

陣内宗次、歳は50を過ぎたくらいだろか、黒の作務衣に映える白髪と顎髭を長く伸ばし、旧友に会いに来た者のように加山に話かける。

 「陣内さん、昨日も言ったが、此処は困った人達がたどり着く場所だ。だから門もいつでも開放している。缶詰、作物も分けると言っている」

 「困った人がたどり着くからこそ、我が獄迦宗が管理すれば人々は救われると思わないのか」

明らかな嘘だ。初対面の宥英のも分る。こいつは此処を独占して、今居る人達を奴隷のように扱おうとしている。それが証拠に左右にいる男達から殺気が伝わってくる。脅しているのだ。

 「加山殿、今夜一晩だけ待とう、此処を明け渡すか、我らの信者になるか」

陣内の笑みが豹変した、背後に黒い靄がかかり、やがて黒い影になる。影は赤く光る目を加山に向けた。

実態化していないが、鬼を召喚しようとしているのだ。

陣内がポンと加山の肩を叩き、先程と同じ笑顔をみせた。

 「良い返事、期待しているよ」

バギーが反転して、瓦礫の向こうに消えていく。

加山はバギーが見えなくなっても、唇を噛み締め、消えた方角を睨み続けた。




 「宥英、ここにいたのか」

月明りが差し込む倉庫。獄迦宗が帰ってから、集落では会議が開かれていた。もう、明け方に近い。

戦うか逃げるか、選択は二つしかない。信者になるという事は奴隷になる事。部下ではなく奴隷だ、死ぬまでこき使われるだろう。

宥英は部外者という事で、会議への参加を拒み、集落で生まれた子供達が遊ぶのを見ていた。

 「ああー、開けかけの缶詰があったので、残すのはばちが当たるだろう」

 「ははは、そりゃあそうだ」

加山は缶詰を一つ取り出したが、開けようとはせずに、手の中で遊ばせた。

 「俺は昔、こう見えても僧侶でな、徳は高くないが、人をまとめるのは得意だった」

加山は倉庫の奥を見つめて話だした。別に宥英に聞いて欲しいという感じでもなく、ただ話す。

 「戦争の時も皆、俺を頼ってきたが何もできずに俺だけが生き残った」

加山は唇を噛み締めた。彼にも辛い過去があるのだろう。

 「宥英、あんた退魔師、拝み屋じゃねえのか?」

 「なんで、そんな事を言う」

 「いや、陣内の鬼の影を見ても怖気おじけずかなかったからな」

 「・・・・」

 「力を貸してくれないか」

加山が力を貸してくれと言った事は、会議で戦う方に決まったのかもしれない。今の時代、此処から出て行っても生きていける保証はない。

宥英は立ち上がり、加山に背中を向けて歩き出した。

 「出ていくのか」

 「ああー 面倒ごとはごめんだ」

宥英は倉庫を出て、入ってきた門とは違う、裏口へと足を向けた。

 「宥英ー!  じゃあー! 何故今まで此処にいたー!」

背後で加山の声がする。しかし宥英は歩くのをやめない。

 「迷っていたからじゃないのかーーー!  俺達と此処で前を見て生きようとしたんじゃないのかーーー!!」

遠く背後から加山の声が響いた。

 「俺に未来まえはない」

宥英は誰に言うともなく呟いた。




 「ハハハ、門を閉めているという事は殺されたいのですね」

工場の前にバギーが一台と二十人位の男達が並ぶ。獄迦宗の教祖と信者達だ。

信者達は皆屈強な体つきで、暴力の匂いをプンプンとさせている。戦後獄迦宗の名の下で、本能のまま好きなように生きてきたような連中だ。

バギーの背後にはダンプカーが控えている。

陣内が手を高く上げ、前に下ろした。それを合図にダンプが門へと加速する。

      ガガーーーーーーン!!!

門はダンプの一撃であっけなく壊され、信者がなだれ込んできた。

しかし信者達は次々と落とし穴へと落ちていく。落とし穴の下には竹やりが敷いてあり、信者を動けなくしている。しかし、罠に落ちなかった信者達が次々と工場へと攻めいる。それを集落の男達が迎え討つ。

加山も錫杖しゃくじょうを手に奮闘して、信者に引けを取る事なく対峙する。

信者達の方が闘い慣れているが、人数は集落の男達の方が多い。落とし穴にやられた分、獄迦宗は攻めあぐねていた。

 「ふん、少し甘く見過ぎたか」

陣内がバギーから降りて壊れた門から中へ入っていき、指で印を結び始める。

 「棟、畜、臨、闇の門をくぐりし者よ、我に従え」

呪文を唱えると背後で黒い霧がうごめき始めた。

霧は徐々に人型を作り、3メートルを超える鬼へと変貌していく。

鬼は獣人タイプ、全部で3体。それぞれ牛、馬、猪の頭部を持ち、屈強な身体には腰布だけを巻いている。

鬼が喧騒の中に入っていき、集落の男達を襲い始める。

 「みんなー!  一度畑の奥へ避難しろ!」

鬼の襲撃を見た加山が指示をだした。集落の者達は鬼に背を向け、逃げようとするが、鬼に追いつかれ頭を掴まれる者もいる。

加山が錫杖で鬼の手を叩く。しかし鬼は掴んだ男を離さない。続いて鬼の顔面に錫杖を入れる。ようやく鬼が男を離した。

加山は頭から血を流している男に、逃げるように顎で合図をだした。

鬼が赤い目を加山に向ける。感情が読めない目。いや、感情等ないのだろうと加山は思う。

もう二体の鬼も加山の前に現れた。牛、馬、猪の頭部が上から加山を見下ろす。

 「臨、兵、闘、者、階、陳、烈、在、前!」

加山は覚悟を決めたように早九字を唱えた。




 宥英が裏口から出ようとした時、ふわりとピンクの服を着た少女が現れた。

ピンクの少女は、前回と同じように宥英の腕をとり、缶詰工場を指さして笑顔を見せる。

 「またお前か」

宥英は、今度は引っ張られないように踏みとどまった。しかし少女は無垢な笑顔を絶やす事なく、彼を引っ張る。前に進もうとする少女の後ろ姿が再び娘の香苗と重なった。

踏みとどまる力が緩み、宥英は再び工場の敷地内へと戻っていく。

畑の向こうに大きな影が三体見える。その前に錫杖を握り、奮戦する男がいる。

しかし男は大きな影に掴まれ、地面に叩きつけられた。

宥英の腕を掴まれていた感覚が消え、ピンクの天使が消えた。

宥英は足を止める事なく、畑を超え三体の鬼の前に立った。

 「ほうー 加山以外にも、鬼に挑む者がいたか」

陣内が小馬鹿にしたように宥英を見る。

 「無駄じゃ、儂の鬼には勝てぬ。儂は鬼を支配する役小角。いや神! 神じゃからな!  ハハハハ」

陣内の笑声が合図のように三体の鬼が宥英に襲い掛かった。

 「俺はこの世の神仏しんぶつを否定する!!  かみ等、この世にいねえーーーーー!!!!

                   ナウマク・サマンダバザラダン・カン!!!!」

宥英がマントラを放つ!  火柱が上がり鬼達が吹き飛ばされた。

火柱は炎の龍となる。龍はあおとオレンジのコントラストを描き、吹き飛ばした鬼達を飲み込み消滅させていく。

 「何じゃ!   何が起こった。  儂の鬼は・・・・」

事態が把握できない陣内が慌てふためき、辺りをキョロキョロと見渡した。

 「終わりだ、不動明王浄化の炎。お前達も浄化されろ」

陣内の前に宥英が立った。その背後に碧とオレンジの炎を纏う明王の姿が見える。

明王が炎で燃える宝剣を振り下ろした。炎が驚愕の表情を浮かべる陣内を包む。悲鳴を上げる事無く獄迦宗の教祖は炎と共に消滅した。

獄迦宗の信者達も次々と炎に呑まれ消えていく。

静寂が訪れ、強烈な紫外線を纏った日差しが、荒らされた畑の作物を照らしてた。




 陽が沈み、急激に気温が落ちてきた。

加山は手足を骨折したが、命に別状がない程度の怪我ですんだ。

数人、集落の人間が命を落としたが、獄迦宗の脅威は消えた。

宥英は一人倉庫に来ていた。別に缶詰を食べに来たわけではない。

倉庫の壁に設置された梯子はしごを上り、天板が外せる箇所を開け、屋根裏へと登った。

持ってきた蝋燭ろうそくに火を点ける。

屋根裏は狭いが小部屋のようになっていて、缶詰が入った段ボールが置いてあった。

ゆらゆらと揺れる炎の中、朽ち果てたピンクのワンピースを着た白骨遺体が横たわっているのが見てとれた。

遺体の傍に缶詰が数個転ころがっている。

宥英は缶詰を一つ拾い上げ、缶切りで開けた後、遺体の傍に置いた。

置かれた缶詰を、ふわりと降りて来た、ピンクのワンピースを着た少女が両手で掴んだ。

宥英は少女にフォークを渡し、頭を撫でて微笑んだ。

少女は笑顔を宥英に向けた後、フォークを缶詰に入れた。

 「オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ  オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ」

少女が食べ終わるのを待ち、印を結びマントラを唱える。

蝋燭の炎が優しく揺れ、炎の灯りとは違う灯りが屋根裏部屋を照らす。

この世の灯りではない灯り。人々を導く優しい灯り。 

 「地蔵が迎えに来たぞ」

宥英の言葉に答えるように、少女は無垢な笑顔を彼に向けた。

少女の姿がゆっくりと消えていく。その間も少女が笑顔を絶やす事はない。

やがて部屋の明度が落ちて、蝋燭の灯りだけになった。

蝋燭の灯りは、優しく包むように、ピンクのワンピースを照らし続けた。




 「やっぱり行くのか」

壊された門の前に四輪駆動の車が止まっている。

獄迦宗の壊滅から二日が過ぎていた。荒らされた畑の修復等、動けない加山の代わりに宥英が指揮をとり、ほぼ修復できた。

 「ああ、門は修理しないのか?」

 「元もと開放していたからな」

獄迦宗が攻めて来たので門を閉めていたが、普段は門を閉める事はなく、流民をいつでも受け入れりのが此処の決まりのようだ。

 「この車、もらってもいいのか」

 「ああ、みんなからの修復のお礼だよ、ガソリンは何とかしろよ」

今の時代、ガソリンスタンドはない。しかしガソリンスタンドの跡はある。車がある者はそこからガソリンを汲み出している。

しかし、この瓦礫の地で移動を心みる人は少ない。水があり、作物が育つ地があるなら、そこから離れる者は殆んどいない。

 「しかし、ピンクの天使は本当に天使だったな」

加山が青い空を見上げ、強い日差しに顔をしかめた。

 「どういう事だ」

 「おまえを此処に導いてくれたからさ」

ピンクの服を着た少女を成仏させた事は、加山には伝えていない。伝える必要はないと宥英は思う。この集落は自活できる力と団結があるからだ。

 「ハハハ、ピンクの天使はお腹が空いていたんだよ」

 「えっ! 何だって?」

エンジンを吹かしながら、宥英が言った言葉を、加山は聞き逃したようだ。

 「じゃあな!」

宥英がアクセルを強く踏んで、車を発車させた。

ルームミラーには、いつまでも手を振る、加山と集落の人の姿が映っている。

彼はミラーに映り込んだ自分の顔が少し笑っているのに気付いた。

自分でも、笑うのは何年ぶりかなとも思い、さらに苦笑いを浮かべた。

後部シートには缶詰が入った段ボールが五箱積まれている。

 「食料にも暫くは不自由しないか・・・・」

宥英は、もう少し生きてみるのも悪くないかと心に思い、アクセルを更に踏み込んだ。




 「おい、地蔵についていかなかったのか?」

暫く走った後、宥英は助手席にふわりと降りて来る気配を感じた。

ピンクのワンピースを着た少女が、無垢な笑顔を彼に向けて助手席に座っている。

 「仕方ねーなー、成仏したくなったら言えよ。また地蔵を呼んでやるからよ」

少女は笑顔で頷き、フォークを宥英に見せた。

 「ハハハ、わかった、わかった。缶詰も開けてやるよ」

排気音の中、宥英の笑声が混じる。

炎天下に近い日差しの下を、四駆の車が瓦礫をぬぐいながら、軽快に走り抜けて行った。


























 






 
































  読んでくれた方、ありがとうございます。

ありふれたストーリーですが、頭の中に続編も浮かんでいます。

暇ができたら書いてきたいと思います。          でわでわ。

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