プロローグ:冒涜的なまでの死に様
夜に人通りの少ない道を通るべからず。
小さい頃にはよく聞かされたものだ。「夜に出歩いてる子は、お化けに連れて行かれちゃうぞ〜」みたいにね。俺こと内藤 哲、17歳にもそんな記憶がある。
とは言え、高校生にもなると、そうも言ってられない。女子高校生なら防犯の都合上まだしも、男子高校生は夜でも結構出歩く。「お化け?知るかそんなもん」と言わんばかりに。
現在、12月11日午後22時半。かくいう俺も、塾やら寄り道やらで遅くなり、必死こいて自転車を漕いでいた。
「おぉ……さっぶっ……ん?」
常に同じ道を通っていると、案外脇道を見落としがちである。
この時間に自転車を漕いでいると、巡回してるパトカーに見つかって色々と面倒臭い。よって、車通りも人通りも少ない道を通ることにした。
後になって思った事だが、このとき脇道に逸れていなかったらあんな事にはならなかったと思う。
しばらく無言で自転車を漕いでいた。すると、非常に違和感のあることだが、突如としてこう思ったのだ。
導かれたい。と。
いや、何にだよ。いきなり何考えてんだ俺。
我ながら、意味不明だった。だが、それこそが、狂気の世界……いや、異世界に導かれる前兆だったのかもしれない。
グチュ……ヌチュ……ベチャァ……
「え、何この音。なんか卑猥……」
呑気なことを言っていた。この時に、何も考えずすぐに逃げていれば、俺の運命は変わっていたのだろうか。
突如、視界の端、四方八方から、黒く名状しがたい触手のような物が自転車……いや、俺に迫ってきているのが分かった。
「な、なんだよこれ!?気持ち悪りぃ!!」
自転車のペダルを踏みしめ、全力で漕がんとした途端、自転車は急停止して、俺は宙に投げ出された。
「うぁっ!?痛い痛い!いやいやいや、ありぇねぇから! は!?」
迫り来る触手。こけた際に足を痛めたのか、後ずさりする事しか出来なかった。
黒い触手が、自分の腹を貫いたと分かった瞬間、急激に意識が遠のいた。
最悪な死に方だ。笑えねぇ。
そう感じるのはごく当たり前のことだ。おかしいのは、それと同時に思っていたこと。
おぉ、神よ。今からあなた様の元へ…
一体俺はどうしてしまったんだ。
そして、呆気なく意識を手放したのだ。