96 邸外
――――――数日前
「遅い、遅いわ・・・」
エリ―シア邸近くの建物の陰に暗い色のフードをかぶった3つの人影があった。ナナミ、ルリリ、オザスポークである。彼らはエリ―シア暗殺を完遂(あるいは撤退)したトキワの脱出を支援するため待機していた。
「トキワ、もう合図の時間はとっくに過ぎているのに・・・」
ナナミはトキワの身に何かが起きたのではないかと、広がる不安を抑えるように拳を胸に押し当てた。自分のせいで今頃危険な目に会っているのではないかという恐怖に震える。
優しいトキワ、大好きなトキワ、こんなときにいつもわたしを想ってくれるあの人の笑顔ばかり思い起こされる。無事なの?どうして出てこないの?お願いだから、どうか無事でいて
「ナナミちゃん、トキワなら大丈夫だよ。トキワの強さはナナミちゃんが一番よく知ってるはずよ。今はトキワからの合図を見逃さないように集中しよう」
ナナミはルリリの言葉に頷く。彼女の言う通りだ。
「うん、うん。そうね、ありがとうルリリちゃん。トキワを信じなくちゃね」
ブンと首を振り、見張りを続ける。
それから幾らも経たないうちに邸宅に変化が生じる。
パッ
急に邸宅の全ての窓に明かりが灯った。
「明かりが!? どうして!!?」
「撤退だ!!」
オザスポークが二人に命令する。その声に焦りの色が見えた。
「ちょっと! まだトキワが脱出してないでしょ!?」
オザスポークは顔をしかめながらエリ―シア邸を睨む。
「いや、直ぐに逃げなければ。あんなに派手に明かりがついたということは彼が残念ながら暗殺に失敗し、返り討ちにあったということだ。すぐにエリ―シアの部下が来るぞ!」
「それなら、なおさら助けに行かなくちゃ!」
「無理だ! エリ―シアに正面から立ち向かって勝てるはずがないっ! 彼が負けた相手に私たちだけでどうにかできると思うのか!?」
そこにルリリが割って入る。
「それでも、私たちはトキワを助けに行くわ。たとえこの身に変えてもね」
そう言って手足を獣化させ、ルリリはすぐにでも突入する構えをとる。ナナミも頷く。
「まてっ、もしまだ彼が生きているのなら捕虜となっているはず。私なら彼が捕らえられていそうな場所にいくつか心当たりがある、今は退いて態勢を立て直すべきだ!」
オザスポークの言葉に今にも飛び出しそうな二人の体が止まる。ルリリがオザスポークの胸ぐらをつかむ。
「その場所を教えろ!今すぐに!!」
ルリリは獣化した箇所の毛を逆立たせて唸る。
「断る! 今向かってもエリ―シアと鉢合わせして犬死だ! 君たちを無為に死なせるわけにはいかない!」
オザスポークの断固とした言葉にルリリの腕の力が緩む。
「・・・わかった。今は退くわ、ルリリちゃんもその手を離して」
ナナミがルリリに促す。二人ともトキワのことが心配だったがここで言い争っていては三人とも危ないということも理解していた。
「・・・悪かったわ」
ルリリがオザスポークに謝る。
「気にするな。それよりも直ぐに逃げるぞ、一旦拠点に戻ろう!」
三人はあらかじめ用意しておいた逃走拠点に走った。