95 最悪の二択
「うぅ・・・っ」
目を覚ますと硬い石床の上だった。牢に入れられそのまま気を失ってしまったらしい。腹が痛む。呼吸のたびに激痛が襲う。しかし吐き気は収まりずいぶんと楽になった。
―――もう何時間経っただろう?
外はどうなっただろう。『ワクチン』は俺の失敗にもう気付いているだろう。ナナミとルリリは無事だろうか。暗殺されかけたエリ―シアがレジスタンス捜索しないとは思えない。オザスポークが彼女たちを上手く匿ってくれていることを祈るしかない。
どうやってここから脱出する?指一本すら動かすことができない。モンスタークリエイトを使おうにも、今の状態では気絶するか、最悪死ぬ可能性がある。とりあえず今は体力を回復させるのに専念するべきだろう。
目を閉じてじっと体を休めていると、カツンカツンと地下室へと降りてくる足音が聞こえた。
「ごきげんよう」
エリ―シアだった。
「ぐっあぐっ・・・」
そこから始まったのはエリ―シアによる拷問であった。足を持ちあげられ、逆さ吊りにされたまま腹をドンドンと叩かれる。一発ごとに内臓が破裂するような衝撃を受け、気絶することすら許されない。
「もうよろしいかしら?いい加減私の臣下になる気になったかしら」
逆さのエリ―シアの顔が俺を見下ろす。
「・・・ふざけるな、断る。鬼畜が」
バツンッ
俺の意識は途絶えた。
目を覚ました。先ほどよりもさらに痛めつけられた体が悲鳴を上げる。もはや呻くこともできない。ただ呼吸をすることにも苦労する。
カツンカツン
あの足音が聞こえる。
「ごきげんよう。ふふふ、良いものをもってきたわ」
どうにか薄眼でエリ―シアを見上げる。彼女は何やら2つの皿を持っている。
「・・・なんだ、それは」
嫌な予感がする。
「ふふふ。見ればわかるわ」
そう言って皿を俺の目の前に並べる。皿に盛られていたのは対照的なものであった。一つは香ばしい匂いを漂わせた肉と野菜の料理。そしてもう一つは見るもおぞましい芋虫の集合体であった。斑点模様の長い物体がうぞうぞと皿の上でのたうち回っている。
「さあ、ご飯の時間よ」
エリ―シアが嬉しくてたまらないといった様子で俺の顔を見る。
「ご飯・・・?」
「そう、二択よ。どちらを選んでもいいわよ、こっちの料理を選べば致死性の毒があなたの命を奪うわ。あるいはこっちの虫は弱い毒しか持っていないから、こちらを選んでもいいわよ」
何という悪辣な女だ。衰弱しきった体で食べればどちらにしても死ぬかもしれない。しかし、どちらも食べなければ間違いなく死ぬだろう。生き残るために俺に残された道はこの芋虫を食べるしかない。しかし、うごめく斑点模様が食欲を失わせ、生理的嫌悪感を沸き上がらせる。加えて焼きたての肉の匂いが俺の心を折ろうとして来る。
「さあさあ、早く選ばないと皿を下げちゃうわよ」
エリ―シアが心底楽しそうに俺の顔を覗き込む。