94 女帝
「―――俺の能力を使った」
俺は正直に話すことにした。下手に嘘をついても見透かされるとエリ―シアの目を見て予感した。自分の能力を明かすのは避けたいが、背に腹は変えられない。
「―――なるほどね。勇者かあ。私以外のユニークスキル持ちなんてべレッド国広しといえどとっても稀有なんだけれど。貴方もその一人みたいね。面白い。面白いわ」
エリ―シアが俺の目を覗き込むように顔を近づける。
「私の職業は『女帝』よ。こう見えて、生まれは全然高貴ではないのだけれど、関係ないわ。人の価値が生まれで決まるなんておかしいもの。私はこの世に生を受けた時から支配者になることが決まっているの。だから貴方のような特別な存在は全員私に傅くのよ。ここで殺してしまうのは惜しいわ。貴方、私の臣下になりなさい」
俺の目の奥底を除くようにまっすぐと見ながらエリ―シアが命令する。その有無を言わさぬ物言いはまさに『女帝』というにふさわしい姿であった。
「・・・お前の臣下になったところでどうなるというんだ。お断りだ」
その瞬間俺は地面に叩きつけられた。その衝撃で再び吐血する。声も出せないほどの痛みに悶絶した。エリ―シアは拒絶され怒り狂うかと思いきや、存外微笑んでいた。
「ふふふ。素直に屈服しない気骨のある男の方が価値があるわ。・・・だけど、この私に向かって『お前』は許さないわ」
そう言って何度も俺を持ちあてはびしゃんと地面に叩きつけた。もう視界が白転暗転し、意識が飛ぶ寸前にエリ―シアの手が止まる。
「まあ、今日はこのくらいにしておきましょう。貴方は牢に閉じ込めてこれから私を主人だと認めさせてあげる。その傷じゃあ2~3日は能力を使うこともできないでしょう。回復の暇なんて与えない。貴方が屈服するのが先か、死ぬのが先か、どちらかしらね。拷問の手段はいくらでも用意があるから、楽しみにしていらっしゃい」
エリ―シアはそのまま俺を引きずって階段を下り、屋敷の地下へと降りていった。薄暗くじめじめと肌寒い石造りのその空間は紛れもなく牢獄であった。ゴミ袋を放るように中に放り投げられ外から錠をかけられてしまった。俺は状況に絶望しながら、体中を襲う痛みと吐き気にただ呻いていた。