92 潜入
「時間だ。行こう」
オザスポークの号令で俺達はアジトを出た。夜も更け、既に道に人の気配は無くなっていた。ひりひりとした空気の中俺達は音もなく動いた。これから人を殺しに行くのだと思うと体中が震えてくる。足が重い。モンスターを倒すのとどうしてこうも違うのだろう。
気がつくともうエリ―シアの居宅が遠くに見える距離まで来ていた。オザスポークが合図する。俺はほとんど機械的にスキルを発動させた。
『モンスタークリエイト』
真黒のキラーバットが眼前に出現し、『ワクチン』のレジスタンス達が驚嘆の声を漏らす。オザスポークは俺の顔色を見て囁きかける。
「・・・貴方達を巻き込んだこと、改めて陳謝します。貴方がエリ―シアを殺すことに抵抗があるのは当然です。大多数の人間にとって同胞を殺害することは嫌悪感と罪悪感で難しいです。ですから、エリ―シアを無力化して連れてきていただければ後は我々が彼女を『処分』致します」
「・・・・・・ここにいるのは俺の意思でもあります。あの時瀕死のナナミを救うためなら、俺はどんなことでもしたと思います。だから、救ってもらった借りは必ず返します」
オザスポークは黙ってうなずく。俺はそれ以上何も言わずにキラーバットに掴まる。キラーバットはその大きな翼を広げて空に羽ばたいた。
空高く飛ぶとキラーバットは暗闇と一体化して、地上から目を凝らさない限り決して見えない高度まで上がっていった。
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―――あそこから入れそうだ
キラーバットに命令してエリ―シア邸の屋上の隅に着陸した。頭上からの侵入者に無警戒の見張りたちは邸の外を向いていたため気付かれなかったようだ。俺は音を立てないように身をかがめ、煙突から邸に侵入した。
煙突をロープを伝って降りるとそこはリビングのようであった。あたりは暗いが、机の上のバスケットに果物やクッキーが入っており、この部屋の主人の生活が少し伺えた。
廊下にでて、俺はまっすぐ寝室を目指す。この屋敷の図面は既に頭に入っていた。というのも、エリ―シア邸は元コスモス・ラビット市長宅をそのまま使っているからである。そのため、さて寝室はどこだろうとしらみつぶしに屋敷を歩き回らずに済む。
「・・・ここか」
地図に示された部屋の前に来た。