90 マッチとの再開
そこにいたのはマッチだった。薄暗い店内の中でも、見覚えのある青い瞳が俺に存在を主張していた。予想だにしなかった再開に不意を突かれながらも、俺は彼女の傍の席に座った。
「この店に来る客はそうはいないんだけれど、ひょっとして知っていたの?」
「いや。偶然立ち寄っただけだ。まさかマッチに会えるとは思わなかったよ。」
「ふふっそうなの? トキワは運がいいわね。この店は知る人ぞ知るこの町でも指折りの美味しい料理を出してくれる店なの。マッチ帳に書いてある中でも、中々いいランクの情報よ。他にも美味しい店はいくつかあるけど、美味しくてこれほど落ち着いた雰囲気の店はこの町には他にないわ。」
「それはよかった。この店のお勧めは何かな」
「本当なら情報料をいただくところだけれど、一緒に依頼を受けた仲だから特別に教えてあげる」
そう言い終わって、マッチは店の主人に冷塩サラダを注文してくれた。その後俺を見てくすりと笑った。
「なんてね、本当は出世が期待できる貴方に小さな恩でも売っておいた方が得かもしれないって思ったの」
マッチはそう言ったが、実際その気持ちもあったのであろうが、一緒に依頼を受けた仲だからという理由も本当なのだろうと感じた。
「しゃりしゃり。おっこれは美味いな! 塩加減が絶妙で野菜の臭みが消えつつも歯ごたえをしっかり残してる!」
俺は並べられたサラダに感激していた。
「うふふ。美味しいでしょ。情報屋の名に懸けてここの店の冷塩サラダは絶品よ」
旅中サラダなど食べられないため、久しぶりの新鮮な野菜にフォークが止まらなかった。今までの陰鬱な気持ちが少しだけ晴れた気がした。
「少しは元気になったようね。この店に入ってきた時のトキワの顔ったら、一瞬別人と思うくらい暗かったもの」
「そうか。済まないな。気を使わせてしまった」
「良いのよ。それより、キラーバットを討伐してからずっと姿が見えないから心配していたの。一体どうしていたの? それに指名手配までされていて驚いたわ、なんでもモンスターを町に引きいれて暴れまわったことになっているわ。でもそれは、ナナミを助けるためだったのよね」
俺は一瞬レジスタンスにかくまってもらっていたことを話そうかとも思ったが、すぐに思いなおした。たとえレジスタンスの存在を知りながら密告をしていないマッチに対しても、革命前の組織のことを話すのはためらわれた。計画については言うまでもなく。
「ああ、何とか回復魔法の使い手に会えてナナミは無事だ。どこに行っていたのかは済まないが話せない」
マッチは少し残念な顔をしたが、それよりもナナミが無事と聞いてほっとしたようだ。