9 『モンスタークリエイト』
神官が俺の名前を呼ぶ。俺は内心どきどきしながら神父の前に立つ。神父が俺の頭の上に手をかざすと神父から光が俺に降り注いできた。すると俺の体も神父と同じように光り、何とも言えない心地よさが全身を包み込んだ。
「トキワ。汝の職業は・・『勇者』。得られしユニークスキルは『モンスタークリエイト』」
一瞬自分の職業が何を言われたのかわからなかった。『勇者』なんて職業は聞いたことがない。天使(この世界では神か?)ガブリエールが言っていた「特別な才能」とはこれのことだろうか。周りにいる人も歓声の代わりに静寂と困惑を俺に向けた。ダイダイヤ伯父さんもナナミもゴーホさんも信じられないといった様子で呆然としている。俺もその中で居心地が悪く、いそいそと自分の席に戻った。とたんに後ろの方でざわざわと俺について話す声が聞こえた。次の人の名前が呼ばれてもしばらく収まらず、神父が咳払いをしてようやくまた静寂が戻った。
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「トキワ!なんていったらいいか・・・あなたの職業、少しかわってるわね!?」
儀式が終わると真っ先にナナミが話しかけてきた。
「ああ。それに何だか、自分が自分じゃないみたいなんだ。力がみなぎっている。」
「まあ、トキワなら勇者になっても納得かもしれないわね。あんなにボロボロだったのにわたしたちを救ってくれたとき、本当に勇者みたいだったもの。わたしも魔法使いになれてよかったわ。しかも2属性持ちよ!」
「そうだね、ナナミもおめでとう!」
「おいトキワ。お前、とんでもない職業についちまったな」
そこにダイダイヤ伯父さんが割って入った。
「レイモンドがいたら何て言うかな。おめでとう、トキワ。それと・・・勇者の、えーと、『ユニークスキル』だっけか?そんな能力聞いたことないぞ。ずっと気になっていたんだ。ちょっとやって見せてくれよ」
周りで俺たちの様子を見ている人たちもうなづいている。どうやらみんな俺の『ユニークスキル』なるものがどういうものか気になっていたらしい。
未知の能力を使う場合は危険を伴う可能性があるため、ひらけた場所で能力を使うのが暗黙のルールとなっている。俺たちはダイダイヤ伯父さんと、ナナミと、ゴーホとそれから大勢の野次馬を引き連れて町の外へ出た。
俺は深呼吸して体に満ちた力を用いスキルを行使した。スキルは自然と、体が既に使い方を知っていたように発動させることができた。頭の中に浮かんだものが、ユニークスキルの始動ワードだと直感した。
「『モンスタークリエイト』!!」
途端に目の前の地面に魔法陣が現れ、大地から生まれてくるように大きな真っ黒の物体が1つ現れた。
「う、うわぁ!スライムだ!」
誰かギャラリーが叫んだ。確かに黒いが、大きさといい形といいこれは紛れもなくスライムであった。こいつが現れると同時にどっと体力を消耗したのを感じた。周りの大人たちは速やかにこの黒スライムを排除しようと身構える。
「ま、まってくれ!」
俺は慌てて静止した。自分の能力だからか、この黒スライムがむやみに人を襲うことは絶対にないと確信があった。俺は近づいて黒スライムに触れる。ギャラリーは驚いて、狼狽した。すぐにそいつから離れろっ!と叫ぶ人もいる。
「こいつは俺が作りだしたモンスターです。俺には分かる。みなさん落ち着いてください。こいつは絶対に人を襲ったりしない」
しかしギャラリーは遠巻きに俺と黒スライムを注視している。俺はまずいと思った。スキルの性質上、家族がモンスターに殺された人も多い中で俺がこの町に受け入れられるために、ここで俺の生み出したモンスターが危険であると思われてはいけない。
「・・・わたしはトキワを信じる」
そのとき、たった一人ナナミが俺のそばに歩いてきた。ナナミが俺の目を見た。俺は頷くと、ナナミは意を決したように黒スライムを優しく撫でた。よく見るとナナミの腕は少し震えていた。無理もない、つい最近スライムに命を奪われかけたのだから。ダイダイヤ伯父さんとゴーホさんもナナミに倣う。すると周りの人達の警戒心が薄れてきた。普通のモンスターであればとっくに俺たちは襲われているからだ。俺はさらにギャラリーの警戒心をなくすため、黒スライムが完全に自分の支配下にあることを示すことにした。
「『10マート(1マートは0.99メートル)先へ移動しその場でジャンプしろ』」
すると黒スライムは忠実にその命令を遂行した。黒スライムがジャンプした瞬間、驚きの大歓声が起こった。どうやら黒スライムに危険が無いことが伝わったみたいだ。その後は衆目の中モンスタークリエイトの限界に挑戦してみた。まず、生み出せるモンスターはスライムのみだった。理由は分からない。スライムしか生み出せない能力なのか、それとも俺の習熟度が上がれば他のモンスターを生むことができるのか。できれば後者であればいいなと思う。また、黒スライムは同時に52体まで生み出すことができた。だが、生み出しすぎて俺は息も絶え絶えになった。ギャラリーが煽るから調子に乗ってしまった。スライム52体とか、この町の警備隊に運用次第で勝てるのではないかと思う戦力である。何しろ野生のスライムと違い自在に俺が操れるのだから。
・・・本当に創りすぎてしまった。日が暮れ、もう帰ろうとするが、自分自身でモンスターを消そうにも消せないので、どうしようもないので俺たちは家に帰った。52匹の黒スライムを町の外に並べたまま。
その日は見張りの警備兵がいつもの倍に増え、かつてない緊張感だったそうだ。