89 夜の町へ
「わたしのせいで巻き込まれた話だから今まで黙っていたけれど、せめてわたしもトキワと一緒に行かせて! トキワが私のために危ない目に会うなんてやっぱりだめよ・・・!」
ナナミが辛い顔をして訴える。俺の気持ちも分かった上で、それでもなお俺を危険な目に会わせたくない一心での言葉なのだろう。俺はナナミの頭をなでる。
「この作戦は人数が多いほど逆に危険なんだ。それに、潜入から脱出するときに一番適しているのが俺だ。だから俺が行かなきゃ。大丈夫、きっと無事に帰ってくるよ」
そう言って優しくナナミを抱きしめる。
「でも・・・・・・」
ナナミは口から出かけた言葉をぐっとこらえるように俯く。
「大丈夫だ」
ナナミは胸の中で頷く。ナナミも俺を抱きしめた。少しの間抱き合った後、オザスポークに向き合う。
「俺が行きます」
「・・・ありがとう」
オザスポークは俺に頷く。
「もちろん彼だけに危険は負わせない。私たちはエリ―シアの住宅の傍にいる。もし作戦にアクシデントがあればトキワが逃げられるように全力でサポートする」
「わたしも参加するわ!」
ナナミが言う。ルリリも同感という顔をする。オザスポークは頷く。
「では作戦は明日の夜、皆が寝静まった頃に決行する。トキワはそれまで休んでいてくれ。私は幹部と細かい段取りを確認する。君たちも残ってくれるか?」
ナナミとルリリが一緒に頷いた。俺は自室へと帰った。すぐに寝ようと考えたが、どうしても眠れない。明日の夜、もしかしたら人を殺すことになると思うとぞっとする。俺は顔が隠れるコートをかぶって外に出ることにした。もう夜も更け、ひんやりとした空気が体をなぞった。人込みを避けるように街路を奥へ奥へと進んでいく。この道を進んでいくとどこへ着くのだろう。突き当りを探すように細い細い道を通る。
そんな中、道の横に小さな酒場があった。時間をつぶせるかもしれないと、俺は入って見た。こんなところまで市兵団はいないだろう。念のためフードを深くかぶったまま中に入る。
「主人、なにか酒を一杯ください」
俺は初老の主人に酒を頼んだ。座席は10もなく、俺の他には一人の女性しかいなかった。彼女が新たに入ってきた客に目線を向けると、その目を丸くした。
「あ、あれっ!? トキワじゃない!」
そこにいたのはマッチだった。