86 レジスタンス
「・・・これが私がレジスタンスとして活動している理由です」
静寂が立ち込める。オザスポークの話に俺は言葉を失った。自分の部下達を殺された仇が市民に英雄視されているのをずっと見てきた彼の気持ちなど、俺には想像もできないだろう。下手な同情はかえって失礼だと思った。
「事情はよくわかりました。ナナミを助けてもらった恩もありますし、貴方達に協力しましょう」
オザスポークはほっとした顔をした。俺の能力がそれほど彼らの計画にとって重要である証拠だろう。
「よかった。貴方の協力があれば奴らと戦えます。早速ですが、貴方の能力について詳しく教えてください。私が入手した情報との齟齬があるか確かめねば」
わかったと、俺はわかっている範囲で正直に自分の能力を伝えた。普通なら少しは能力を隠したほうがいいのだろうが、彼は直感的に信用のおける人物だと思った。この手の人物に下手に隠し事をすると後々面倒なことになるだろう。オザスポークは説明の途中にたまに質問を交えつつ、頷きながら俺の能力について理解した。
「なるほど、・・・なんと強力な能力なのでしょう。はっきり言って想像以上です。特に、倒したモンスターを幾らでも創り出せるようになる所が凄い。これなら何とかエリ―シアを倒すことができるかもしれません」
「ライトブロード軍の精鋭とはいえ、所詮一小隊ではないのですか?今の俺ならスケルトンやゴブリン程度のモンスターならかなりの数を生み出せます。正面から打ち負かすのは容易いと思うのですが」
俺は不思議に思った。レグンド港町の町兵団は対モンスターの大群に対する兵の練度はとても高いとは言えなかった。いくらライトブロードの隊とは言え、モンスターの大群に対する戦闘経験などどこの軍だってそうそうないはずだが。オザスポークは首を振る。
「ええ、普通の隊ならばその通りでしょう。しかし、あの小隊にはエリ―シアがいるのです。彼女がいるだけであの小隊は無敵の力を発揮します。奴らの軍事演習を偵察して彼女の能力を探ったのですが、一人の重騎兵とその馬に彼女が触れると、その兵士と馬の体が輝き、そのとたん兵士は一振りで木を切り倒し、馬はもう普通の3倍以上の速さで駆けまわっていました。おそらくエリ―シアのユニークスキルでしょう。奴はすべての兵士にそれを施すので、ただでさえ強い部隊がもう手が付けられなくなる。・・・思えば、以前にコスモス・ラビットがモンスターの侵攻を受けた時、奴らはもっとずっと早く到着していたはずなんだ! それを、俺達が消耗しきるのを待ってやってきたんだ。抵抗勢力の削減と、劇的な展開の演出のためにわざとな! そもそも、モンスターの大群が襲ってきたのだって自然現象だったのか怪しいものだ!」
話しているうちに熱を帯びてきたオザスポークは机をガンッと叩く。
「・・・なるほど、どうやら思ったよりエリ―シアは手ごわいようですね」
「・・・ああ。熱くなって済まない。・・・ともかく、作戦を練らなければならない。そろそろ、貴方の仲間を部下が連れてくるころでしょう。市兵団やライトブロード軍に見つからないよう、貴方たちはしばらくここで泊まっていってください」
俺はオザスポークの提案に乗り、しばらくして彼の部下に連れられてルリリが合流した。油断しなければ、キラーバットに遅れをとることはないとは思っていたが、やはり無傷であった。
「マッチはどうした?」
「マッチは一度別れたわ。報酬はまた後でって言ってたわね」
「そうか。まあこれ以上一般人であるマッチは巻き込まない方がいいだろう。しばらくしてから彼女にまた会いに行こうか」
「そうね。それよりも、ナナミちゃんの様子はどう?」
「もう大丈夫だ。このレジスタンスのリーダーに治療してもらった」
「よかった。トキワならきっとナナミちゃんを何とかしてくれると信じてたわ」
「その代わりとして、俺はレジスタンスに協力することになった」
「・・・それは、トキワが無理やりこいつ等に協力させられてるってこと?」
ルリリの目が殺気を帯びる。俺は慌てて付け加える。
「いや、俺が彼らに協力したいと思ったんだ」
「そう、それならいいわ。レジスタンスとか、人間の事情には全く興味がないけれど私はトキワに従うわ」
どうやらルリリも俺と一緒に戦ってくれるみたいだ。俺は感謝しながら頷いた。