83 コスモス・ラビット侵略⑦
この部には一部の読者にとってショッキングな表現が含まれております。苦手な方はこの部を飛ばすことを推奨いたします。
オザスポークは行きつけの酒場の戸を開ける。いつもの喧騒が屋内に満ちていた。しかし、小隊員たちの姿は見えなかった。もう帰ってしまったのかとがっかりしながら女将に話しかける。
「やあ、女将。小隊のやつらはもう帰ってしまったかい?あいつら、俺を置いて勝手に楽しむとは。明日はみっちりとしごいてやらないと」
しかし女将は怪訝な顔をする。
「あら、今日小隊の方たちは来ていないわよ。モンスターどもから町を守ってくれた英雄たちだからね。わたしも腕によりをかけた料理を振る舞おうと待ってたんだけどさ。そういえば、さっき部下の奥さんがあんた達を探していたわ。新婚だし、夫の安否が心配だったんだろうねえ。家でおとなしく待ってるように言ったんだけど、もう少し探してみるってどこかへ行っちまったよ。あんたも隊長なら、部下に今日は早く家へ帰るように言っておやりよ」
「ああ。そうだな、済まない邪魔をした。また来るよ」
そう言って酒場から出る。オザスポークは首をひねる。
(おかしいな。酒盛りでもなければ家に帰ったわけでもない、一体どこへ行ったんだ?)
ひとしきり思い当たる場所を当たったが、どこにも見当たらなかった。そこでふとある考えが浮かんだ。
(あっひょっとしたらライトブロード軍のところへ行って飲んでいるのかもしれないな。そうに違いない。しまった、もうだいぶ時間が経っちまった。仕方がない、今日は酒はあきらめておとなしく部下を家に帰すとしよう)
そう思い、急いでライトブロード軍がいるロッジへと向かった。
オザスポークはようやく市兵団のロッジ区画へと戻った。既に歩き回った上に戦闘の疲れでふらふらだったが、ライトブロード軍に割り当てられたロッジのドアに手をかけた。その時ロッジの中から声が聞こえた。
「あっああん、・・・いやっやめてっあっ」
それは女性の悲鳴であった。ただ事ではないと、眠気で霞んでいたオザスポークの頭がさっと晴れ、すぐに戸を開けた。
中に広がっていたのは、醜悪を絵に書いたような光景であった。何人もの男が裸の女性を凌辱していた。女性の体は暴行された形跡と、男たちの体液で見るも無残な状況であった。
オザスポークは口を開け、絶句した。男たちに嬲られている女性は以前に見たことのある、部下の妻であった。彼女は目に涙を浮かべ、助けを求めるようにこちらを見る。
「ははは! いい具合じゃねぇか! こんなところに来ちまって運がなかったな! おらっ! おらっ!」
容赦のない男たちの辱めに女性の顔は痛みと絶望に染まっていた。
「何をやってるんだ貴様ら!!」
怒りがオザスポークの魔力を一瞬で沸騰させた。魔法とも言えない、純粋な魔力の奔流が男たちを飲み込んだ。飲まれた男たちは一瞬で抵抗の間もなく絶命した。オザスポークは急いで女性の元へと駆け寄る。女性は命にかかわる外傷こそ負わなかったが、うつろな目で虚空を見ていた。その目には涙の跡が残っていた。
「ひ、ひどい・・・。すぐに治してやる」
『魔石に秘められし生命の風よ、今彼女に眠る原初の血潮を醒まし起こせ。マーブルヒーリング』
オザスポークは懐から魔石をとりだし回復魔法を彼女に掛けた。彼女は疲れ切ったように眠りに落ちる。オザスポークは周りを見回す。どうやらこいつらはライトブロード軍の兵士のようだ。彼女は夫を探しにロッジ区画まで来たところを襲われたのだろう。絶対に許せない!憤るオザスポークは直ぐにエリ―シアの元へと向かおうとする。