81 コスモス・ラビット侵略⑤
ヨイガナとオザスポークが訝しがる中エリ―シアは金糸が織り込まれた羊皮紙をとり出し、ヨイガナに手渡した。
「王からの書簡です。ヨイガナ市長にお渡しするように仰せつかっておりますわ」
ヨイガナは蝋栓を外し書面を読み上げる。
「 親愛なるコスモス・ラビット市長殿
この度コスモス・ラビット市の災難に我が王都の精鋭を援軍として向かわせた。我が軍の中でも一、二を争う速さを持った部隊だ。きっと市の力になったことと信じている。
謝礼についてだが、戦で傷ついた我が国の民から多くの金貨を貰うのは忍びない。従って150万金貨またはそれに相当する土地を戦謝礼とさせていただく。
取り急ぎ失礼
べレッド国王 マンドルーズ 」
ヨイガナは目を疑った。震える手でオザスポークに書簡を見せる。すぐにオザスポークの顔も驚愕の色に変わる。オザスポークが震える声で尋ねる。
「こ、この戦謝礼額は本当か!? は、破格だ・・・通例の5分の1以下だ。これではほぼ戦費だけではないのか?」
うやうやしくエリ―シアが頷く。
「はい。心優しい我が王は自国の民の悲劇に大変心を痛めておいででございます。戦謝礼額についてはそれでよろしいですね」
「あ、ああ!もちろんですとも。王の御心に感謝致す」
王の思いがけない心遣いにヨイガナの緊張していた心が緩む。オザスポークも破顔し、場の雰囲気が弛緩した。
「残るは、支払期日についてですが、そちらは財政担当官の居ない今この場で決めるのは難しいでしょうから後日に回しましょう。一つだけお願いがあるのですが、我が軍は国一の速度を持った隊でありますが、その分隊員の疲労は大きいです。どうか少しの間だけコスモス・ラビットでの大罪を許していただきたい」
ヨイガナはそれもそうだと頷いた。
「もちろん良いですとも。コスモス・ラビットにとってあなた方は英雄です。どうぞごゆるりとお寛ぎください」
エリ―シアは感謝の言葉を残し退出した。ヨイガナは全く気付かなかったが、オザスポークは彼女が退出間際薄く嗤ったのを見た。その笑みはそれまで見たような微笑みとは異なっていた。何となく彼は嫌な予感がした。