75 神殿へ
「急げ!」
俺はナナミを乗せてグレートハウンドを走らせる。市内を風となって駆けていく。すれ違う市民の悲鳴が聞こえるが、俺は全てを無視する。一刻も早くナナミを治療することだけを考えていた。ナナミは既に大量の血を流してぐったりとしている。顔から次第に血の気が失せ残された時間がそれほど多くはないことを悟らせた。
「すまんっどいてくれ!どいてくれっ!」
俺は叫びながら一心不乱に神殿に向かう。遠くに見える神殿がいくら走っても近づかない気がする。抱えるナナミから零れ落ちていく血が俺を焦らせる。
「ナナミ、しっかりしろ!」
両親を置いて逃げた時の記憶が頭をよぎる。
「くそっ!何をしているんだ。俺はっ何度大切な人を失えば気が済むんだ!何も成長していないじゃないか!」
繁華街を駆け抜け、十字路を左に曲がり、裏路地を抜け、・・・
「止まれ!」
ようやく俺は神殿前にたどり着いた。そこに待っていたのはコスモス・ラビット市兵団だった。兵たちの槍が一斉に俺の方を向いている。どうやらグレートハウンドで市内を駆けまわっている内に指名手配されてしまったらしい。
「我々はコスモス・ラビット市兵団である!モンスターを乗り回し、市民を危険に晒した罪により、そなたを拘留する!」
「俺たちは冒険者です!市内を騒がせたことは謝ります!しかし今はこうするしかなかったのです!怪我人がいます、そこをどいてください!」
指揮官らしき男が言う。
「ならん!神殿内にはコスモス・ラビット中の病人や怪我人が集まっているのだ!そなたのような怪しい者を絶対に通すわけにはいかん!」
そう言って合図を出すと兵たちが俺たちを捕らえるため前に出る。
「くっそ!!」
ここで捕まればナナミの体が持たない。かといって強行突破しても治療が受けられることはないだろう。俺はグレートハウンドに命じて兵団から走り逃げた。しかし、行く当てもない。
「くそっどこへ行けばいいんだ!」
グレートハウンドで駆けながら考えるが、いい考えが一向に浮かばない。都合よく僧侶や賢者のようなヒーリングできる者が神殿以外で見つかるとは思えない。それでもあきらめるわけにはいかない。一か八か、まだ俺達が指名手配されていないことを祈って人の多いギルド内で探すしかない。そう思い、ギルドへ向かおうとしたその時、裏路地から男の声が聞こえた。
「こっちだ!早く来いっ治療してやる!」
俺は迷うことなく男の方へと向かった。