74 撤退
バサバサバサッ
「来たっ!」
キラーバットが先頭にいたナナミに飛びかかった。ナナミは後ろに避けようとしたがキラーバットの黒い影に飲まれる。
「ナナミっ」
俺たちが急いで駆け寄るとキラーバットはナナミから飛び離れた。最悪の想像が頭をよぎる。しかし、ナナミは無事であった。反対にキラーバットの方が転げながら苦しんでいる。
「ふう。とっさだったけど、上手く顔に当たってよかったわ」
そう言って立ち上がったナナミの手のひらには小さな火の玉が浮かんでいた。
「無詠唱魔法!?」
俺はほっとしながらも信じられない気持ちでナナミを見る。無詠唱魔法は体内の魔力の発露のコントロールである。自身の膨大な魔力を高純度、高密度に圧縮させそれを完璧に制御することにより初めて発動する魔法使いの究極奥義の一つである。
俺ははっとした。暗闇でよく見えなかったがナナミの腕から血が滴り落ちている。
「腕が!」
ナナミは腕を抑えながら唇を震わせ苦痛に耐えている。
「ト、トキワ・・・ごめんなさい。油断したわ」
「すぐに神殿に向かうぞ!大丈夫だ。絶対に助けて見せる」
俺はルリリとマッチの方を見る。二人とも頷く。
『モンスタークリエイト!』
俺はグレートハウンドを生み出す。ナナミを乗せ神殿へと走る。その時襲撃者への怒りに燃えるキラーバットの大きな黒い影が暗闇の空に舞い上がっていく。その数は一つだけではない。次々と黒い影が昇っていく。奴らは弱ったナナミに狙いを付けると一斉に急降下してきた。
「邪魔だ!」
ロングソードを振りかぶる。その時一匹のキラーバットが突然墜落した。マッチがナイフを投げて仕留めたのだ。別のキラーバットが俺達に襲い掛かる。
ギィ!ギィィィィィイイイイ!!
獣臭い悲鳴を上げながら突進してくるキラーバットに俺はロングソードを振り下ろした。翼を切られた奴が地に落ちる。しかしまだまだ数が多い。
『ウォオオオオン!』
その時狼のような咆哮が後方から俺達全員を貫いた。マッチやキラーバットさえも咆哮の主を振り返った。
「ルリリちゃん・・・!?」
ルリリは両手足を変身させ、臨戦態勢に入っていた。
「何してるの!早くナナミちゃんを治して!ここは私が食い止めるわ」
ルリリたちは心配だが、キラーバットに遅れは取らないだろう。それよりも、一刻も早くナナミを治療するためにグレートハウンドを神殿へと急がせた。
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「私もいるわよ」
マッチがルリリの背中を守るように立つ。
「ルリリちゃんのこと、後で話してもらうからね」
「ふー、人間は知りたがりね。ふん、いいわ。ここを切り抜けたら教えてあげる」
ルリリはため息を吐きながら爪をだした。