72 マッチ
すっかり日が暮れ、さらに雨が降っているにもかかわらずコスモス・ラビットは鎮まるどころかより一層の賑わいを見せていた。
「おっきな町ね!夜なのにどこの家にも明かりが灯っていてとてもきれい!お店もたくさんあって、なんて素敵な町なのかしら」
そう言ってナナミが道沿いに並んでいる店をきらきらした目で見ている。
「ああ。だが買い物するにも今は金がない。まずは一刻も早くこの町で仕事をしなくちゃ。このままだと宿をとるどころか、飢え死にするよ」
「ぐすん、そうね。買い物は後にしましょう。さっさと冒険者ギルドに行きましょ。これだけ大きな町なら『剣と杖のロンド』の支部だってきっとあるわ」
俺たちは道行く人たちにギルドの場所を尋ねながら、ようやく剣と杖のロンド支部に到着した。キリ町の支部よりもやはり規模は大きく、仕事も様々なものがあった。俺はどの仕事を受けようか悩んでいると、後ろから女の声が聞こえた。
見ると褐色の肌にきれいな青い瞳をした少女であった。布の肌着の上にレザープレートの防具を最小限に身に着けた身軽な恰好をして、腰には小型と、超小型のナイフが数本刺さっていた。
「ちょっとちょっと、あなた達ここらじゃ見かけないけど新参者?いいえ、それにしては装備が使いこまれているわね。わかった、この町へ来たばかりの冒険者でしょう!」
褐色の少女は俺達を値踏みするように観察する。
「ああ、そうだ。何の用だ?」
「あたしはマッチ。E級冒険者。主に薬草採集やモンスター討伐の依頼を受けて生活してるわ。それよりも、あなた達あたしと組んでみない?」
突然の申し出に少し驚く。ちょっとボーイッシュな雰囲気の褐色少女はいたって真剣という目でこちらを見ている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんでいきなりそうなるんだ。見ず知らずの人間と一緒に仕事をする意味がわからないんだが」
「だって、あなた達こんな時間に仕事を受けようとするなんて、見た目も貧乏くさいし今お金もってないんでしょう?あたしもそうなの。だからすぐに依頼を受けたいんだけど、ほら、一人でできる依頼って大抵薬草採集とかじゃない?さすがに夜にできないから他の人とパーティを組んで別の依頼を受けようとしても、こんな時間に誰も依頼を受けようとしないわ。だからあなた達があたしとパーティを組んでくれたらとっても助かるわ」
「なるほどな、そっちの事情は分かった。だけどこちらのメリットがない。俺たちは一応C級冒険者だ。E級冒険者である君がついてきたところでたいした戦力にはならないし、報酬だって4等分になる。悪いが他を当たってくれないか?」
「ちょっと待って、じゃああたしが役に立つことが分かればパーティを組んでくれるのね」
そう言うとがさがさと腰に付けた巾着から何かをとりだした。
「これは?」
「これはこの町の様々な情報をメモした手帳ね。あたしはこれをマッチ帳と呼んでいるわ。あたしは普通の仕事を受ける傍ら、価値のある情報を交換したり買い取ったりしてこのマッチ帳に集めているの。つまり、あたしはこの町の事情に相当詳しいわよ。この町に滞在する以上、あたしと組んでいて損はないんじゃないかしら」
「なるほど・・・それは確かに有益そうだな」
つまり彼女は情報屋もやっているらしい。
「わかった。もしマッチが持っている情報で、俺達に有益な情報があれば手を組もう」
「ええ、そうしましょう。じゃあ、・・・『若者に最も人気な料理店』は?」
「うーん、そこらで尋ねれば教えてくれそうだ。対価にするにはちょっと弱いなあ」
「それなら、『この町の女の子がときめく100の言葉』は?」
「いたたたたた、ナナミ、まだ何も言ってないじゃないか。も、もちろん揺れてなんかないさ。必要ない
「じゃ、じゃあとっておきのネタよ。近頃盗賊団が町に現れているらしいわ。そいつらの居場所。これならどう?」
「君のパーティ加入を認める!」
俺とナナミは同時に即答した。きっとそいつらの仲間が俺達から荷物をひったくった犯人に違いない。