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勇者はモンスター軍を率いて魔王に宣戦布告する  作者: 四霊
第一章 モンスタークリエイト
70/96

70 虚無の町㉔

 豪炎の中から現れたのは不敵な笑みを浮かべるサンバムと体長2マートルほどの銀色の美しい狼だった。おそらくグレートハウンドと同じ種族のモンスターだろうが、明らかにそれとは格が違うことが分かる。


「氷系最上級のモンスター、フェンリル。この世界にはいない、異界のモンスターだ。私のようなレベル4の召喚士はこんなモンスターだって召喚できる。まあレベル4の召喚士などこの世界に数えるほどしかいないがね」


 そうサンバムが言うとフェンリルは俺に向かってつららのような氷の矢を飛ばしてきた。無詠唱でナナミの魔法よりも速く硬い氷が無数に飛んでくる。俺は死ぬ気でロングソードで氷を弾き飛ばす。半身になり顔をガードして致命傷を避けようとするが、氷の矢が俺の腕や足の肉に容赦なく突き刺さる。冷酷で無機質な物体が俺を貫いたショックで意識が飛びそうになる。


「あっ、ぐっ」


 想像を絶する痛みに顔がゆがむ。止めを刺しにフェンリルが突進してくる。


「トキワ!」


 仲間たちが助けに寄ろうとするがとても間に合わない。一瞬でフェンリルに間合いを詰められ俺は死を覚悟する。


「それ以上異界の者の狼藉は許しません」


 ・・・その時、フェンリルは立ち止まって目をガブリエールの方へ向けた。ガブリエールの怒りは頂点に達しているようで、フェンリルに殺気を向ける。フェンリルは危険を察知し後退する。その目はガブリエールへの敵愾心に燃えている。ガブリエールはフェンリルの視線に意を介さず静かにサンバムに語り掛ける。


「サンバム、召喚士が異界の者を呼び出すこと、その者を使役して多くの命を奪うこと、個人的感情抜きに言えば異世界の住人である我々はそれ自体に一切干渉できません」


 ガブリエールの怒気をものともせず飄々とした様子でサンバムは答える。


「そうですかい。神様にそう言っていただけるとは少々意外でしたが、俺としても、別次元にいる神様にまで消えてもらおうと思うわけじゃないから、敵対しないというのならこちらにとっては好都合ですよ」


「貴方を直接処断することは異世界の住人に危害を加えないという我々の理に反します。・・・しかし、そちらの獣については別です」


 そう言ってガブリエールがぱちんっと指を鳴らすとフェンリルが苦しみだす。


「早くその者をもとの世界に返しなさい。命まで奪いたくはありません」


「・・・ちっ」


 そう言ってサンバムはゲートを出現させフェンリルを異界へ返した。ふうっと息を吐いてグリフォンを呼び出し、その背中にまたがった。


「ここまでだな。俺の最強の召喚獣をこうもあっさりと倒すなんてさすが神様だ。」


「まてっ・・・お前を逃がしたら・・・また・・・」


「ははは。またな、こんどは神様がいないところで止めを刺してやるよ」


 そう言って新たに召喚されたグリフォンがサンバムを乗せて飛び立つ。姿が小さくなって空に消えて行くのをじっと見つめる。悔しい気持ちで胸がいっぱいだった。


「うううっ・・・」


 どうやら仲間たちも同じようだ。ナナミは声を震わせて泣いている。結局なにもできなかった悔しさで俺達の心はいっぱいだった。


「トキワ、そしてナナミ、ルリリ」


 ガブリエールが俺達に話しかける。見ると、先ほどまでとはうって変わり、彼女は憔悴しきったような辛そうな様子だった。


「私はもうすぐに天界へ帰らなければなりません。蠅の王と違い私は自らの力でこちらの世界へ来ました。そのためもう体力が限界に近づいてきています。私は調停者として異世界からこの世界を破壊するものを排除はできますが、それ以上のことはできません。この世界の住人であるサンバムを倒すのは同じ世界にいるあなた達以外に無いのです。今後も彼を自由にすると我々の手にすら負えない事態になるでしょう。そうなる前にどうか彼を止めてください」


 そう言って彼女はナナミとルリリに抱かれている俺の体を優しく撫でた。すると不思議と体が軽くなり、気がつくと傷がすっかり塞がれていた。


「・・・そして、蠅の王から受け取ったその腕輪は絶対に使わないで下さい。悪魔と契約するということがどれほど重い代償を支払うことになるのか、・・・わざわざ言うまでもありませんね」


 俺は傷が塞がり切っていない体を起こす。ひどく痛みが走ったが、構わなかった。


「ガブリエール、サンバムは俺達が何とかします。この腕輪も使わないようにします。何度も、貴女には助けられっぱなしですね」


 ガブリエールは優しく首を振る


「いいえ、礼を言われることではありません。断っておきますが、私は貴方の味方ではありません。私は、私の使命を全うしているに過ぎないのですから」


 ガブリエールがそう言いつつも、彼女の体は次第に消えつつあった。


「それでも、俺たちが救われたことに変わりはありません」


 ガブリエールはそこで消えてしまった。消える寸前一瞬彼女が嬉しそうに微笑んだように見えた。


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