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勇者はモンスター軍を率いて魔王に宣戦布告する  作者: 四霊
第一章 モンスタークリエイト
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7 ナナミとの出会い

 目が覚めると、次の日の昼頃だった。ダイダイヤ伯父さんは一度帰った後、書置きを残して仕事へ行ったようだ。まだ体はけだるかったが、腹が減ったので何か腹に入れるため家の外へ出ていく。真夏の(この世界にも四季がある)太陽が町中に、俺の顔に降り注いでいる。

 キリ町に来るのはこれでまだ2回目だ。12歳の時1度だけ父に連れていってもらったことがある。そのときはすごくワクワクしたものだが、今一人で歩いていると何ともさみしくなる。大通りへ出ると喧噪が激しくなった。俺は出店で動物の腸にウマの肉を詰めた馬版ウインナーを買った。金は母が渡してくれた金貨で払った。


ぷちっぷちぷちっ


 ジューシーな肉汁が口いっぱいに広がる。フライドポテトも一緒に買った。こちらも揚げたて熱々で最高の味だった、と普段であればそう思えただろう。しかし今はその料理の美味しさがより一層虚しさを際立たせた。


「肉好きの父さんと食べたかったなあ。きっと幸せそうにかぶりついたんだろうなあ。それとももっと美味しい料理が出る店を教えてくれたかもしれないな」


 沈んだ心で独り言をつぶやいていた時、

 

「あっキミはあの時の!」


 突然俺に声をかけてくる少女がいた。銀髪ショートヘアで活発そうな顔つきをしている。夏らしく薄手のシャツとショートパンツでかわいらしい装いをしている。


「やっぱり!キミ、私たちを助けてくれた人だよね!あの時はありがとう!キミはもう体は大丈夫?」


 ああ、スライムに襲われてた親子の娘の方だったか。一緒に戦った父親らしい中年男はともかく、少女のほうはあまり見る余裕もなかったからわからなかった。


「ああ。もう平気だよ。こちらこそ俺を警備隊まで届けてくれたそうだね。ありがとう。俺はトキワ。君の名前は?」


「わたしはナナミ。助けてもらったんだもの、そんなのあたりまえよ。それより、うちへ来ない?パパもキミにお礼を言いたがってるの。」


 今はあまり他人と会いたい気分ではなかったが、せっかく誘ってくれた厚意を無下にするのも悪いのでついていくことにする。


―――――


 というわけで、俺はナナミの家の前に来た。彼女の家は周りの家と比べて特に大きくもなく小さくもないレンガ造りの家だった。外装は整っていて上品な感じがした。


 ガチャッ


「ただいまー!今パパ呼んでくるからそこでまってて。」


 玄関で女の子の父親を待つこの時間を何と形容すべきか。思えば前世も含めて女性の家に来たのは初めてだ。こういう時若干の冷や汗がでることを知る。すぐにあの中年男とナナミが現れた。


「おう、あの時の兄ちゃんだな!まああがれや!」


 中年男がタンクトップで出てきた。格闘士らしい彼の大きく発達した筋肉はたくましくて男としてかっこいいと思った。家に上がらせてもらってテーブルに着いた。ナナミが果物のジュースを俺についでくれた。父へはジョッキのビールが注がれていた。


「あの時は助かったぜえ。ドジ踏んじまってな。たった3体のスライムに情けない限りだ」


「格闘士にとってスライムは天敵みたいなものですからね」


「ははは、そういってくれるとありがたい。俺はゴーホってんだ。ところで兄ちゃんはどこから来たんだ?見たところ成人してないだろう。向かってきた方向からして、カワ村か?」


 カワ村というのはキリ町から一番近いそこそこ大きな村だ。


「いえ、違います。俺はチュウ村から来ました」


「チュウ村!?おまえ、チュウ村からなんて未成年が一人で来れる場所じゃないぞ?」


 そこでゴーホさんは、はっと気づいた。


「まさか森にグレートハウンドが出て立ち入り禁止になったのと何か関係しているのか?」


「・・・はい。俺の一家がグレートハウンドに襲われました」


「ああ、そうか、すまない。悪いことを聞いてしまった」


一家が襲われたこと、俺一人が町に走ってきたこと、二つの事柄が意味することをゴーホはくみ取ったようだ。


「いえ、もうすぐ討伐隊が結成されて敵をとってくれるでしょう。・・・俺は両親の分まで精一杯生きようと思います」


「そうか。兄ちゃんは立派だな。あらためて礼を言う。そんな状況で俺たちを助けてくれたこと、感謝する。」


そういってゴーホさんとナナミが一緒に頭を下げた。そこまでかしこまらなくていいのに、と思った。


「ところで、このタイミングでキリ町に来るってことは兄ちゃんもナナミと同じで成人の儀式にでるつもりなのか?」


 ナナミも俺と同い年だったのか。年下だと思った。


「はい。明日の儀式で俺も晴れて成人になります」


「そうか!では明日は二人にとってめでたい日だな。じゃあ、助けてもらったお礼と兄ちゃんの成人祝いに一杯やるか!」


 もう誕生日的には成人してるので、俺も遠慮なくビールをいただいた。ゴーホさんは本当の息子であるかのように俺たちの成人を祝ってくれた。しかし、ふとどうしようもないさみしさがこみあげてくる。心に空いた穴にビールを流し込むようにその日は太陽が沈むまでゴーホさんたちと飲み明かした。



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