68 虚無の町㉒
サンバムが手に持っていたのは小さな古い本だった。
「この本は俺の尊敬するゴールドマン・アークスターという人が書いた日誌でな、彼はスリーエイト村の領主だった。しかし彼は領民が毎日毎日つまらないことで自分を困らせることに我慢ならなかった。ここからがアークスターの凄いところなんだが、彼は何と悪魔を呼び出すことにしたらしい!こんな風に書かれている。
『全く!本当に腹立たしい連中だ。テッドなんてまた俺に文句を言いにきやがって!俺が職務怠慢だと!?あいつら一度でも俺の仕事の量を考えたことあるのか?くそっ絶対あいつら殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる・・・・・・よし、落ち着いたぞ。さあ今日も悪魔召喚を研究しよう。もう少しで完成だ。思えばあいつらがいたからこそ俺の研究のモチベーションが下がらなかったとも言えそうだな?。はははははは』
アークスターは自身が召喚師だったことを生かし、多忙でありながらも領民を消し去りたい一心で悪魔召喚の研究にいそしみ、その結果見事悪魔召喚を確立した。その結果が――」
「『スリーエイト村消失事件』・・・」
ナナミがつぶやく。スリーエイト村消失事件、俺も昔母親に聞いたことがある。ある日突然一つの村が消失した事件。人、家畜など村から動物が跡形もなく消え去った怪奇さからこの世界では有名な話だ。村が消失する少し以前から村に入った人が全員行方不明であり、しかも誰一人として村から出てきた人がいなかっため一体何が起こったのか、未だ不明である怪事件である。