66 虚無の町⑳
「どういうことだ!?」
ガブリエールの言葉に耳を疑う。この町の住人が蠅を呼び出した犯人だって?
「そんな、・・・そんなことあるわけないじゃない!いくらなんでもこの町の人全員が蠅の王を呼び出そうとするなんて」
ガブリエールは首を横に振る。
「いいえ。事実です。といっても、『全員』というのは語弊がありますがね。正確には、小さな子供たちは蠅の王の召喚にかかわってはいなかったようですが」
そう言ってガブリエールが何か手を回すような動きをすると、近くの家の扉が開く。俺はその中を見て言葉を失う。家の中には狂気そのものがあった。誰かを呪い殺すといわんばかりの表情をした手足を失った人形や常人には理解不可能な落書きがまず目に飛び込んできた。壁には原型をとどめないほど腐り切った肉が釘で打ち付けられ、ぽたぽたと茶色い汁が床に落ちていた。
「・・・ここが特にひどいわけではありません。どの家の中も同じような有様です。この町の住人は蠅の王を召喚しました。考えても見てください。あの蠅の王を召喚するのに、たった一人の人間の力でどうにかなるはずもないでしょう。各々の力と力を連鎖させて増幅させることで異界へのゲートをつなげたのです」
ガブリエールが指と指を繋ぐようにして説明する。彼女の説明はわかりやすかったが、やはり納得できない部分もおおかった。
+
「ちょっとまってください。なるほど、確かに言われてみれば個人で蠅の王を召喚するのは『不可能』であることは良く分かります。しかし、問題は『動機』・『理由』でしょう。一体全体どうして町の人たちはそんなことをしたのですか!」
「それは彼に直接聞いてみましょう」
そういってガブリエールは『彼』の方を見る。そうだ。町の人皆が犯人というのなら、この男も当然当事者の一人なのだ。
彼。・・・サンバムさんは気だるげに空を見上げた。