63 虚無の町⑰
俺は絶望に飲まれそうな心を何とか踏みとどまらせて打開策を見つけようとする。
(どうする・・・二人を連れて逃げる手段はないか?チャームにかかって動けない二人を連れて・・・いっそモンスタークリエイトで一か八か戦うか?いや、二人が動けない以上、二人が真っ先に狙われる可能性が高い。それとも二人に手を出さないままでいてくれるだろうか?そんなわけない。蠅の王はそんな甘い相手じゃないだろう。蠅の王がその気になれば俺もすぐにチャームにかかってしまう。二人を守りながら戦うのは不可能だ・・・)
『戦う』も『逃げる』も今の俺の選択肢になりえなかった。となると俺にできることは『話す』ことだけである。
「蠅の王、俺の名はトキワだ。俺の負けだ。どうか奪うのは俺の命だけで勘弁してくれ。俺の職業は勇者、この世界に一人しかいない存在だ。ルリリ、ナナミ、サンバムさんの3人を見逃してくれるなら俺をどうしてくれても構わない。・・・頼む」
しかし、力を持たない俺が相手にできるのは『交渉』というよりむしろ『お願い』である。相手の気分や都合に生殺与奪をゆだねる状況に身を置くことに他ならない。しかし、相手にメリットを提示できない『お願い』など親しい仲でもない限り通常成立しえない。蠅の王が優しく、楽しそうに言う。
「ふふふ。この状況で貴方を含めて誰かを逃がすなんてそんなもったいないことしませんよ。3人とも私の子の苗床となってもらいます。貴方はチャームに掛けるか、2人の女性のどちらかを人質になっていただくかして私のために働いてもらいます」
俺は、自分がこの状況を招いたことを深く後悔した。俺だけならまだしも、ナナミとルリリまで巻き込んでしまったことに。自分の能力があればいざとなれば逃げきれる、いつしかそう思ってしまっていたのだ。とんでもない勘違いであった。浅はかな考えであった。蠅の王の実力を甘く見た俺の完全な失敗だ。
「すまない・・・ナナミ、ルリリ・・・」
俺の心が絶望に飲まれんとしたその時、蠅の王が急に殺気を出す。
「まさかこの気配は・・・なるほど、そういうことでしたか」
蠅の王がそう言ったかと思うと突然目の前にまばゆい光が出現した