61 虚無の町⑯
「だ、だめよっ!そんなのって・・・サンバムさん・・・」
ナナミがサンバムさんに詰め寄る。ルリリは理解できないとでも言いたげに首を振っている。
「わざわざ俺を助けに来てくれたことは本当に感謝している。ありがとう。だが、俺のことは放っておいてくれ。なあに、俺だって死にたいわけじゃないさ。蠅の王とやらはあと数日もすれば異世界に帰るんだろう?それまで家でおとなしくしてればいいさ」
サンバムさんは笑いながらそう言った。しかしルリリがそれを否定する。
「いいえ、おそらく偵察蠅に見つかって終りね。もうすでにこの家は蠅が入れない怪しい家としてマークされている可能性が高いわ。今まで見逃されてきたのが不思議なくらいね。いつ蠅たちが強引にこの家に入ってきても不思議じゃないわ」
「ははは、・・・まじかよ。じゃあ、しょうがないな」
サンバムさんは少し動揺したように瞼を閉じてまた目を開く。先ほどの表情に戻っていた。
「それでも、ここに残りますか?」
最後に俺が尋ねる。
「ああ。それでも、だ」
サンバムさんは静かに、だが力強く言い切った。俺はそれ以上何も言えないと思った。
「分かりました。サンバムさん。俺たちは一度この町を出て蠅の王が消えるまで待ちます。どうかそれまでどうか身を隠して生き延びて下さい」
「ありがとう。お前たち、いや、君たちも気をつけてな。絶対に死ぬんじゃないぞ」
俺はサンバムさんに頷くと、ナナミとルリリに行こう、と合図して家から出ることにする。
サンバムさんも見送りしてくれるようで立って玄関まで歩いていく。
俺は家の入り口を蠅が入ってこないように少しだけ開けて外に出ようとしたが。そこにあった光景に思わず固まった。
「こんにちは・・・いかがお過ごしかな?」
そこにいたのは蠅の王だった。