60 虚無の町⑮
(召喚士・・・!?ひょっとして、この人が犯人なのか?)
俺は目の前の男が蠅の王を召喚した人物なのかと緊張した。ルリリとナナミもちらりと顔を見合わせる。しかし何も証拠が無いのでひとまず様子を見ることにした。
「・・・さて、お前たちはこれからどうするんだ?俺に何の用で近づいたんだ?」
サンバムさんは自分のジョッキに入ったオレンジジュースをぐいっと飲み、俺たちに尋ねた。俺は事情を説明する。
「・・・というわけで俺たちはこの町の異変に気付き、サンバムさんが正気であると思ったので助けにこの町に入りました。サンバムさん。まずは俺達と一緒にこの町を出ましょう。」
俺は蠅の王を呼び出した犯人を捜していることは伏せ、ただサンバムさんを救出するためだけにここへ来たように言った。当のサンバムさんは先の赤スケルトンの大群が俺達の仕業としり、かなり驚いた様子である。
「お前たちがあのたくさんの赤いスケルトンを操ってるって!?あ、ああ。すまない、取り乱した。それはいいんだが、他のやつらはどうするんだ?俺達だけで逃げるのか?」
「・・・はい。そうなります。一度蛆に体を支配されたらもう二度と助かりません。それどころか、本能レベルで蠅の王の忠臣となっていますから下手に接触すると私たちのことが蠅たちにばれてしまいます」
サンバムさんは俺たちの表情を見て、俺たちが真実を伝えていることを悟る。
「冗談だろ・・・。くそっ!わかったよ!俺だけでも外に逃げれるだけましってか!」
サンバムさんは状況を理解しつつも、それでも抑えきれない感情を吐き出す。しばらくそうしていると落ち着いてきたのか、静かになる。
「すまない、やはり俺はこの町に留まるよ。たとえもう助からないとしても、他の人達を差し置いて、俺だけが助かるなんてできない。この町はどのみち終わりさ。どうせ死ぬのなら、生まれ育ったこの町で死にたいんだ」