56 虚無の町⑪
俺たちはキマイラロードの背中に乗り、インサエヌエー町の正門に向かった。『偵察』蠅に見つかったらしくほどなくして大きな黒い塊と化した数え切れないほどの『迎撃』蠅たちがブブブブブと生理的嫌悪感を催すような羽音を上げながら俺たちに向かってきた。
「うわわっとんでもない数ね・・・」
ナナミが蠅の大群を見てうえ~と声を上げる。蠅たちは物凄い勢いで飛んでくる。あの塊に真正面から突っ込めばひとたまりもないだろう。
「来るぞ!」
俺が声を上げると同時にキマイラロードに迎撃蠅が殺到した。キマイラロードの熱球フィールドが俺達の外側に展開され、先方の迎撃蠅が次々と焼けたり溶けたりする。しかし蠅たちは全くひるむことなくフィールドにぶち当たっていく。
手筈通り周囲を観察していたルリリが標的を発見して指さす。
「あそこよ!」
「よしっキマイラロード!あの偵察蠅をやれ!」
俺の命令を受けたキマイラロードが口から熱光線を照射して少し後方の上空からこちらを監視している偵察蠅を焼き尽くす。
「これで目的は達成した!急いで逃げるぞ!」
そう言ってキマイラロードに蠅の群れから後退させる。熱球フィールドは強力だが、エネルギー源はキマイラロードの魔力であるため、このまま大群の攻撃にさらされ消耗しつづければいずれ突破される。
「くっ蠅の動きが速い」
『迎撃』蠅たちは通常の蠅よりもずっと速く飛ぶためなかなか振り切れない。
「や、やばいんじゃないの」
ナナミが迎撃蠅が次々とフィールドに激突する様子をみて不安げに言う。
「大丈夫、想定内だ。『モンスタークリエイト』!」
俺は赤オーク、赤ガーゴイル、赤オーガを生み出す。すると蠅たちはそちらに狙いを定め攻撃していく。予想通り、迎撃蠅たちは主により近い距離にいる敵を優先的に攻撃するようだ。つまり、町から遠ざかっていく俺達よりも赤オーガ達の方が主を脅かす敵としての危険度が高いと判断するようだ。赤オーガ達に迎撃蠅たちが襲い掛かる。瞬く間に赤オーガ達の肉が削られていく。長くは持たないだろう。だが、おかげで多くの迎撃蠅から距離を話すことに成功した。
俺とナナミの魔法で残った蠅の群れを足止めしながらなんとか蠅たちの縄張りから脱出することに成功した。