54 虚無の町⑨
「整理するぞ。まず、これから俺たちが潜入するインサエヌエー町は蠅の王に支配されている。蠅の王は町中の人々に自分の卵を産み付けていて、卵を産み付けられた人は正気を失い、助かる見込みはない。ほとんどの町民は犠牲になってしまったと推測されるが、俺たちはただ一人だけ正気を保っていたと思われる人を偶然にも発見した。そこで今からその人に話を聞いてくる、というわけだ。ここまでいいか?」
ルリリとナナミは二人とも頷く。
「ここからが問題なんだが、どうやって潜入するかだ。前回のスケルトン軍の襲撃で蠅の王の警戒は高まっていると考えた方がいい。下手に潜入しようとすると直ぐに蠅の王に見つかってしまうだろう」
「そうね。そう言えば、スケルトン軍はあれからどうなったの?」
「・・・全滅だ。いや、戦わないように命令していたから全滅するのはわかっていたが、問題は全滅の仕方なんだ」
俺は遠目にスケルトン軍が全滅していく様子を見ていた。それはとても奇妙な光景だった。
「町から黒い霧のようなものが出てきたと思うと、それに触れた赤スケルトンたちが突然次々と崩れたんだ。インサエヌエー町に近づいたものから次々と壊れていき、最後には全ての赤スケルトンたちが粉々に砕けちってしまった。遠くからではあったが、黒い霧をよくみると、その正体が分かった」
「何?それは」
ルリリが尋ねる。
「蠅だ。蠅の大群が集まっていた」
「・・・『蠅の王』とはよく言ったものね、自らの使役する蠅の大群を兵隊や諜報に用いているというわけね」
「ああ。というわけで俺たちが潜入するにあたって蠅を何とかしないといけない。蠅の大群をよくみると、蠅がどうやら大きいのと小さいの2種類いるのが分かった。大きい方が赤スケルトンを粉々にした蠅で、小さい方が町中を飛び交っている蠅だ」