49 虚無の町④
結局その日はぐっすりとは眠れず、俺は眠い目をこする。俺たちは何も言わずにパンを食べる。ナナミも疲れ切った様子で黙って朝食を食べている。唯一ルリリだけはいつもと変わらない様子だ。俺たちとは違い、食人はモンスターであるルリリにとって(彼女自身が食べないにしても)当たり前のことであり、ショックはないようだ。
「また、あの町に行くんだね・・・」
ナナミがぽつりと口にする。心底行きたくなさそうな顔である。
「行かないわけにはいかないだろう」
ナナミの気持ちは俺も同じだから良く分かる。でもこの町を放って行くわけにもいかないじゃないか。すると、パンを齧っていたルリリが言う。
「そうかな・・・私はトキワとナナミちゃんがあの町について関わる必要あるのかなって思うよ。魔王軍に襲われているならまだしも、どうしてたかが食人でそこまで二人が深刻な顔をしてるのか良く分からないわ」
「ルリリちゃん・・・」
ナナミが複雑な表情でぎゅっと目をつむる。俺たちは何とルリリに言えばいいのか分からず互いに沈黙が続いた。グレートハウンドの社会で育った彼女に人間の倫理観を押し付けずに説明することが難しく思われた。
「・・・ルリリがそう思うのは分かる。ただ、あの町で何かが起きているのは確かだと思う。それが、魔王と関係するのかどうか分からない以上、確かめてみる価値はあるんじゃないか?」
「うーん、まあ町の人間に襲われても二人なら大丈夫だと思うけれど。わかった。もう何も言わないわ。だけど私はトキワとナナミちゃんが無事なら人間全てがどうなろうとかまわない、それだけは言っておくわ」
ルリリはそう言うと持っている朝食のパンを食べるのに集中する。一見冷徹な言葉に聞こえるが、ルリリの言うことは彼女の立場であれば最もだろう。もともと敵対関係にある人間がどうなろうと知ったことではない。それよりも身近な人が大事なのは当たり前ではないか。決して彼女が冷たいわけではないのだと思う。俺はそっとルリリの頭をなでる。
「ルリリ、ありがとう。俺のわがままに付き合ってくれて嬉しいよ」
ルリリはにこりと笑い、俺たちは少し和やかになった空気の中朝食を食べた。
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