48 虚無の町③
俺たちはルリリの言葉に唖然とする。彼女が何を言っているのか、理解できなかった。
「な、何を言ってるんだ・・・?」
思わず聞き返す。なぜだか、ずっと感じていたこの町の違和感に、心の中でルリリの言葉が妙にしっくりくることに気付いていた。
「だからね、さっき見た屋台の肉、人間の肉だったの。人間の肉が焼ける匂いなんて今まで何度も嗅いだことがあったからすぐに分かったわ。戦いの跡でならともかく、人間の屋台で嗅ぐことになるなんて思いもしなかったけどね。今まで人間が人間を食べているのは見たことがなかったから少し驚いたわ」
そう言って再びルリリはベッドに顔を伏せて気持ちよさそうに伸びをする。
グレートハウンドで、これまでにも何度か彼女の嗅覚に助けられてきたが、今度ばかりは彼女の嗅覚が間違っていて欲しいと心底思った。ボードケイク町などで人が焼ける匂いは俺達も一緒に嗅いでいる。言われてみると、確かにあの時と似た肉の匂いだったような気がした。
言われるまで全く気づきもしなかった。匂いが馬や牛の肉と異なるとしても、まさか屋台の肉が人間の肉だなんて想像もしないだろう。
途端に昼間の人達が恐ろしくなる。皆、何食わぬ顔で普通に生活をしていた。町の人の様子や、この町に警備兵がいないことが全くの無関係だとは思えなかった。
「うっ・・・」
途端に吐き気がする。この異常な町に対する恐怖が全身を包む。ナナミも顔を青くしている。ルリリは俺たちの様子を不思議がっている。この状況で唯一の救いは俺達3人ともこの町で肉を食べていないことだろう。
「すぐにこの町を出た方がいい。この町は異常だ」
俺は二人に提案する。人肉を食べる町なんて聞いたことがない。ましてこんな大きな町でそんなことが行われているのは何かが起きているとしか思えない。
その時、俺ははっとする。あまりに衝撃的なことを聞いて頭が回らなかったが、恐ろしい考えが頭に浮かぶ。ナナミも同じ事を考えたようで、青ざめた表情で俺を見る。
(人の肉は、何処から調達した?)
同時に先ほど話した二人の顔が頭によぎる。
「ストントとヤーサが危ない!すぐに二人に知らせなければ」
俺たちは直ぐに飛び出して屋台のある路地へと向かった。
俺達3人は2人を探すも、どこにも姿が見つからない。途中でルリリが何かに気付く。
「あの肉、ストントとヤーサの匂いがする」
そう言って一軒の唐揚げ屋を指さす。その店の主人の男は細かく切られた生肉を次々と揚げている。俺は主人の足元に血だらけの服が2着分捨てられていることに気付いた。唐揚げ屋には大勢の人々の行列が続いている。
その光景をみて、俺はもうこれ以上この町にいることができなかった。3人ともすぐにこの町を出ることに決めた。宿にも戻らないで、今晩は野宿することにする。
なるべくこの町の住人に不自然に見えないようにこの町を出る。
外に出た瞬間、外の冷たい空気が肺を満たす。いつもなら寒いと思うところだが、人肉が焼けている空気と比べたらずっと心地良く思える。しばらく歩いて町から離れた場所に来て、ようやくナナミが不安そうに口を開く。
「・・・トキワ、これからどうする?」
「・・・さすがに人が殺されている以上は放っておくことはできない。明日宿で荷物を回収してから慎重に調べてみよう」
「わかったわ」
俺たちは不寝番を立てて交代で眠りに入る。しかし俺は目の前のこの町が恐ろしく見えてなかなか寝ることができなかった。