47 虚無の町②
「の、のどが渇いたわ。とりあえず、どこかお店で飲み物を買いましょう」
ナナミはさっさと町の中に入っていく。俺たちも渇きが限界だったので後に続いた。
屋台やアクセサリーの出店が立ち並ぶ通路に行く。ジュージューと肉の焼ける音が響き渡る。なぜだか行き交う人々は全く声を発しない。
ナナミはきょろきょろと飲み物を売っている店を探している。乾燥した地域だけあって、やはり飲み物を売っている場所が少ないようで、あたりには食べ物の店しか見当たらない。
しかし、ようやくナナミは果物から採ったジュースを売っている小さな店を見つけた。3人ともその店に寄る。
「おじさん、そのオレンジジュースを3つください」
俺は店長らしいおじさんに話しかけた。
「・・・ああ。君たちは3人かい?」
「ええ、旅をしています」
「そうか、そうか。インサエヌエーへようこそ。旅の疲れをこの町でゆっくり癒していくといい」
おじさんが俺たちを見てにっこりと笑う。
「ありがとうございます。ところで、この町には門番というか、警備兵がいないのですね」
その時、ジュースを俺たちに渡そうとして伸ばしたおじさんの手が一瞬止まる。いや、手だけではなくおじさんの顔から先ほどまでの愛想のよい笑いが薄れる。しかしすぐに元の表情にもどった。
「・・・ああ、そうだね。でも、このあたりはモンスターが寄り付かないから大丈夫だよ」
おじさんはそう言って手早く俺たちに冷たいオレンジジュースを押し付けると、話は終わりとばかりに作業にもどる。
俺たちは先に今夜泊まる宿を探す。幸いにも宿はたくさんあり、俺たちはその内の一軒に入る。すると、ちょうどロビーから若い二人の男女が出てくるところだった。
「こんにちは。貴方たちも旅人ですか?」
そう言って男の方が話しかけてきた。
「はい。そうですよ。『も』ということはあなた達も旅人なんですね。俺はトキワ、こっちはナナミ、ルリリです。旅人同士どうぞよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします。私はストント。こちらは妻のヤーサです。私たちは王都ライトブロードへ向かう途中なんですよ」
「そうですか!私たちもです。お互い先は長いですが、頑張りましょう」
それはそうと、とストントは声を落とした。
(ここの町の人は一言もしゃべらないみたいで、変なんだ。宿の主人も黙って俺たちを部屋に案内してくれたけれど、やはり一言もしゃべらなかった。あなた達、何か理由を知りませんか?)
俺は首を横に振る。
「確かに静かな町ですが、先ほどジュース屋の主人と会話してきましたし、それほど深く考えなくてもいいんじゃないでしょうか」
するとストントはほっとした顔をした。
「そうですか。よかった。もしかしたら何かの風習でこの町では会話してはいけないのではないかと思っていました。それでは私たちはこれから屋台で食事をするのでまた後で」
そう言って二人は外へ出ていった。
――――――
宿で部屋をとったが、ストントの言った通り、主人は俯いたまま何も言わずに俺たちを部屋に案内した。俺は少し不気味に思ったが、考えてもしょうがないので一旦休憩しようと自分たちの部屋に入った。ベッドはふかふかで、俺たち3人とも久しぶりにその感触を堪能していた。どうやら宿のサービスは悪くないようだ。しばらくして、ベッドではねていたルリリが顔をベッドにうずめたまま不思議そうに言った。
「ねえ、この町って変わってるね」
「そうだな。いくらモンスターが少ないとは言ってもこの町に見張りがいないのはさすがに不用心すぎる気がする。警備兵の姿すら見えないしな」
「ううん、それもだけど、そうじゃなくて」
「そうだな、この町の人はほとんどしゃべらない。寂れているというわけでもないのに、これだけ静かな町は初めてだ」
「ううん、そうじゃなくて」
ルリリがふと顔を上げて俺の目を見据える。
「この町の人間は人間を食べるのね」