46 虚無の町①
「はあ、はあ」
俺たちは強い日照りと乾燥した空気の中、草もまばらな荒野を歩いている。これだけ暑いとモンスターでさえ姿を見せなくなる。つい先ほどオークが一匹いたくらいである。
「と、トキワ。次の町はまだなの・・・?」
ナナミが額の汗をぬぐいながら尋ねた。
「そうだな、あと3ギロマートル(3キロメートル)くらいかな」
俺が地図をとりだして目算すると、ルリリがふえぇ~と言いながら気だるそうに水を飲む。次の町はインサエヌエー町である。町と言っても、環境が悪いため規模は小さくどちらかと言うと実態は村に近いようである。
さっきからルリリの水を飲むペースが早い。姿が人間とはいえ、元の種族はグレートハウンドなので人間よりも代謝が良いのかもしれない。持ってきた水がどんどん減っていく。
「ルリリ、水も無限じゃない。次の町で手に入らないことも考えて少し節約してくれ」
さすがにこのペースだと持たないかもしれないので、ルリリに釘を刺す。ごめんなさい、としゅんとするルリリに少し悪いと思ってしまう。
それにしても本当に暑いところだなと思っていると、ルリリが何かに反応した。
「町だ!人や食べ物の匂いがするわ!」
そう言ってルリリはどこにそんな元気があったのか走り出した。俺たちも置いていかれないように走っていく。程なくして遠くに町が見えた。
しばらく歩いて行くと、次第に町の様子が見える。家はすべてが白い土づくりの壁であるが、良く見ると壁に藁のような植物が混ぜ込んである。前世で地球の乾燥帯の家屋は、家の材料にする木々が採れず、砂まじりの強い風から身を守るために粘土質の土を使っているというようなことを聞いたことがあるが、きっとこの町も同じような家屋様式が発達したのだろう。
町の門の前に来ると、その町に見張りが立っていないことに気付く。今まで見たことのある町や村は全てその防御力に差はあれど、警備を怠ってはいなかったのにこの町は門にカギすらかけていないようだ。
「いくら何でも不用心すぎない?たとえ乾燥地帯のモンスターが少ないとは言っても・・・」
ナナミが少し不安そうに言う。ナナミが不安に思っていることは、この町が既に魔王軍に侵略されてしまっているのではないかということだろう。町の人々の声がまったくしないのも気にかかる。
しかし、ルリリが人や食べ物のにおいがすると言った以上、人がいるのは間違いないだろう。俺は意を決して門の扉を開けた。
中にはちらほらと外を出歩く人の姿が見える。一見普通の町のようだが、俺はどうにも違和感を覚える。