43 魔王思案
魔王レイニーリング・ブライマーはその銀色の目を細めて思案していた。彼は魔人と呼ばれる魔族の中でも最上位種族である。部下からレグンド港町侵攻の失敗を報告され、彼はいささか驚いていた。最も彼が驚いたのが、指揮官であるキマイラロードが倒されたことである。
「レグンド攻略が失敗したのは意外だな。全体として決して強い部隊ではなかったが、レグンドが報告通りの戦力であれば、あの作戦で楽に落とせたはずだ。」
レイニーリング・ブライマーは作戦の失敗がどこにあるのか考える。
(レグンドには私の知らない戦力があったのだろうか、あるいはよほど優れた指揮官がいたのか、それとも何か別の要因があったのだろうか)
魔王は様々な可能性を考えるが、まずは情報をもっと集めるべきという結論に落ち着く。
「至急、人奴隷にレグンドのことについての情報を吐かせろ。有力な情報には褒章を与えてやれ。特に、有力な町の戦力や指揮官については詳しい情報が欲しい」
魔王が部下に命令する。
「加えて、一旦レグンドの攻略は後回しにする。人間の軍が魔王軍に対抗し得ることが分かっただけで今回の失敗にも意味があったと考えられよう。しばらくは軍備を整え、全軍の質、量ともに向上を図る。進軍している部隊を全て呼び戻せ」
命令を聞いた部下たちは恭しく礼をするとその命令を実行するためにそれぞれの持ち場へ向かう。侵攻の一度の失敗により部下たちの魔王への信頼が揺らぐことはなかった。魔物とは言え、人間が魔物を恐れているように、魔物の方もやはりある程度人間を恐れたり、警戒するものである。このように時には人間に敗北することは十分予測できたことであり、逆に敗北したときにこそ、現魔王が冷静かつ慎重に対応していることにより一層の信頼を寄せた。
レイニーリング・ブライマーはさらに思考を進める。キマイラロードに勝てる戦力が人間側に存在すると分かった以上、やはり更なる戦力が必要だろう。
「奴を我が軍の味方につける」
レイニーリング・ブライマーに従わない者は魔物にもいる。彼の治世が気に入らない者、あるいは己の勢力を持ち、次代の魔王を狙う者などである。
そしてこのような者達にはレイニーリング・ブライマーをして強敵と言わしめる者達がいる。レイニーリング・ブライマーはこれまで自らに従わない者を、明確に敵対しない限りは放置していた。いづれまとめて片付けるつもりであったが。
彼は、自らが認めるある魔物の居場所へ飛行する。彼は一切の軍を連れてはいかなかった。理由は二つある。一つ目は無用に相手を刺激しないためである。彼の目的は相手との敵対ではないからだ。
二つ目は彼にとって一切の護衛は必要ないためである。