42 シー・サーペントと潮風
その生き物が体長7~8マートルはあろうかという大蛇であることが俺にもわかるのにそう時間はかからなかった。白い体をうねらせて海底を滑るように泳いでいる。
俺たちがいるあたりの浅瀬に来ると大蛇の白い背中が海面から現れる。俺は海の上での相手と自分とのスケールの違いに本能的に恐怖を覚えた。
「ナナミ!ルリリ!一旦逃げるぞ!」
二人も同じ気持ちだったようで、すぐに俺たちは逃げる準備に入る。
『氷ノ槍!』
ナナミが創り出した氷槍が大蛇の体に傷をつける。大蛇は怒りの形相で突然その巨体を直立させたかと思うと、勢いよく自らの体を海へ叩きつけた。
ザッパーン!!
水しぶきとともにみるみる海面が盛り上がって行き、津波が俺達に向かってくる。
『モンスタークリエイト!』
俺たちは2マートルほどの巨大なモンスターの足に掴まる。そのモンスターは翼を広げ津波から俺たちを脱出させる。
俺たちを救ったモンスターは、この間の魔王軍で倒したガーゴイルだ。人を持ちあげて長い距離を飛ぶことができないが、緊急避難にはなる。
10mほどの上空から下をみると、白い大蛇の全体が見える。8マートル弱ほどのとんでもない大きさの蛇だ。
「こいつがシー・サーペントか」
みると、ナナミが負わせた傷は結構深いようで、シー・サーペントの動きが鈍っている。なるほど、図体がでかい割りに体はそれほど強くないみたいだな。まあ、そうでなくてはこいつが出現する依頼がC級どころではなくなるだろうが。
そろそろ反撃開始だ。
「ナナミ、魔法でシー・サーペントにダメージを与え続けてくれ。動きが鈍ってきたらルリリと俺が奴に直接止めを刺す」
ナナミがこくりと頷き、数多の氷槍を出現させシー・サーペントに射出させる。次々と氷槍が突き刺さり、シー・サーペントが暴れ狂う。
「ギュギュグキュキュ」
奇声を上げ沖へ逃げようと泳ぐ。
「逃がすか!」
俺はガーゴイルから飛び降り、シー・サーペントの尾にしがみつく。そのままシー・サーペントに手刀を突き立てる。思った通り、シー・サーペントの肉はそれほど固くなくダメージを与えることができた。
そこへルリリがシー・サーペントの頭上から落ちてきて、グレートハウンドの爪で頭を切り飛ばした。
「やった!」
シー・サーペントの体は頭を失って痙攣し、動かなくなる。
「危なかった。もし津波に飲まれていたら三人ともやられていたかもしれない」
「そ、そうね。海のモンスター、恐るべしだわ」
「おっきいね~」
三人がそれぞれの感想を述べ、何はともあれモンスターを倒してホッとする。そういえば、と俺は気付く。
(俺が止めを刺していればシー・サーペントを創れるようになったんだけどなあ)
せっかくの水生モンスターを創れるようになる機会を逃して少し惜しく思ったが、まあいつかまたチャンスは来るだろうと思うことにした。
それにしても、モンスタークリエイトの強みである物量戦術が海で使えず、自分の能力に思わぬ弱点があるものだと思った。
――――
無事帰路についた俺たちは小男にことの顛末とプールア貝を持っていく。シー・サーペントを退治したと知り、小男は大喜びして俺たちに報酬をくれる。
報酬はやはりE級のときよりも格段に多く、久しぶりにずしりと重くなった財布を抱えて帰宅した。
「また、トキワとナナミお姉ちゃんと海に行きたい」
「ええ。また『帰り』にレグンド港町に寄って行きましょう」
『帰り』。そうだ。俺たちは帰るんだ。魔王を倒して。必ず3人とも生きてこの町に戻ってこよう、そう改めて決意する。
「ああ。次は依頼じゃなくて遊びに立ち寄ろう。思いっきり海で泳ごう」
その時ふと潮風がここまで吹いてきた気がした。まるで海が別れを惜しむかのように。俺は大きく息を吸い込み宿へ歩いて行った。