41 海と水着
依頼人と待ち合わせた場所はなぜか山だった。
あたり一面山と平地であり、海など見えない。依頼人の小男は俺達を山の中に連れていく。しばらく歩いていると、
「こっちだ」
といって小男は山道を外れ、突然林の中に入っていく。俺たちもそこへ続いていった。
小男が道なき道を進んでいく。時折邪魔な枝を鉈で刈りながら進む。五分ほど歩くと潮の香りがして来る。どうやら海と町を山が壁のように隔てていたようだ。ついに林を抜けたとき、一面に砂浜が広がる。
「うわぁ!すっごーい!」
ルリリが目を丸くして海に走っていく。ナナミも一緒になって走っていった。
取り残された俺と小男は顔を見合わせ笑う。小男が言う。
「では、私は町に帰って報告をお待ちしておりますので」
「わかりました。案内ありがとうございます」
小男が山を下りていく。ルリリとナナミがなぜか砂浜で山を作っている。とりあえず山が作りたくなるのはどの世界でもどうやら同じみたいだな。とちょっと笑ってしまう。
「俺向こうで着替えてくるから二人とも着替え終わったら呼びに来てくれ」
二人にそう言って俺は近くの岩陰で着替える。この世界にも水着があって、キリ町では見たことなかったがレグンド港町では数多くの種類が存在していた。俺はボクサーパンツのような水着を購入した。二人がどんな水着を買ったのかは知らないが、もうすぐわかるだろう。
「トキワ~、もう着替えたわよ~」
岩陰からナナミの声がする。俺は出てきて二人を見る。
ナナミは真っ白な肌と同じ純白の三角ビキニで、整ったスタイルを引きたてつつ、それでいて派手すぎない清楚な雰囲気を生み出している。
ルリリは水色のフレアビキニであり少女らしい可憐さがまぶしい。
「二人とも、とてもきれいだね」
「えへへっありがとう」
美少女二人が照れた顔で笑う。
「じゃあ、さっそくプールア貝を集めるか!」
「おお~!」
とナナミが元気よく叫ぶ。
俺はモンスタークリエイトで赤スライムを3匹創り出す。2マートルあるスライムの体は水に浮くため、俺たちは赤スライムに乗って少し沖にでる。
「よし、このあたりで一度潜ってみるか!」
と、俺は海に潜る。水深は1.8マートルほどでさほど深くないため泳ぎがそれほど得意ではない俺でも何とかなる。(ナナミは川でよく泳いでいたらしく俺より泳ぎが上手く、ルリリも野生の運動神経なのか、さっき少しだけ泳ぎを教えたらすぐに俺より泳げるようになってしまった)
海に潜ると、地面にボーリングの玉ほどの大きさの貝がそこら中にあった。これは食卓でみたことのあるプールア貝だ。どうやらここで群生しているようだ。人が立ち入らない場所なのでこれほど増えたのだろう。
プールア貝の存在を確認し、一度海面へ上昇する。赤スライムによじ登り、俺はモンスタークリエイトで赤スケルトンを創り出す。ところでなぜスケルトンであるかと言うと、呼吸を必要としないモンスターは俺の創りだせる中でスライムとスケルトンだけであり、スライムは水に浮いてしまうため、消去法でスケルトンしか選択肢がなくなるのだ。
『モンスタークリエイト』
大量の赤スケルトンたちが海中に潜り、その数の力であっという間に貝を集めると思いきや・・・
「わわわっ赤スケルトンが海に入ったとたん消滅していく!?」
赤スケルトンたちは海に触れた瞬間すうぅ~と白い靄を出しながら消滅していく。瞬く間に赤スケルトンたちは全滅した。
「スケルトンって海水が弱点なのね」
そうルリリがつぶやく。どうやらその通りのようだ。成仏でもしているというのか。これは俺たちにとって衝撃の事実だった。
「トキワ!これってすごい発見じゃないかしら!」
「ああっ!スケルトンの弱点なんて聞いたことないぞ!もしこれを知らせたら大勢の人々がスケルトンを撃退できる」
「そうね。後でギルドに報告しましょう!」
・・・それにしても、意外とこんなものがスケルトンの弱点になっているとは。確かにスケルトンはこのあたりでは見かけないモンスターだし、この間の魔王軍にもいなかったな。やはり弱点である海が近いこの町には近寄りがたかったのだろう。
というか、こんな発見ができたのはここでたまたま俺がスケルトンを生み出したからに他ならない。普通なら絶対に知られない事実だろう。
などと考えていたが、頼りのモンスタークリエイトが使えなかったため、仕方なく自力でプールア貝を集めていく。
三人で集めた貝は赤スライム(追加で生み出した)に乗せ、運ばせる。大きくて重たい貝を一つ一つ岸に運ぶことを考えるとこれでもかなり楽ができている。
十分な量の貝を集め、そろそろ終わろうとしたとき何か巨大なものが海中をこちらに目がけ物凄い速さで泳いでくるのが見えた。