39 レグンド港町の死闘⑦
「うっおおぉぉぉおおおおお!?」
俺の体から光が放たれた瞬間、まるで夢の中にいるように体が嘘のように軽くなる。もう吐き気も寒気も消えていた。ルリリやナナミ、キマイラロードでさえも戦闘を止め、俺の変貌に目を奪われている。
俺は体から力が湧いてくるのを感じる。直感的に何が起こったのかを理解する。
「レ、レベルアップよ!」
ナナミが俺の考えを代弁した。そう、間違いない。俺は勇者としてレベルアップしたのだ。これまで数多くのモンスターを倒してきたことを考えると当然かもしれない。
『・・・モンスタークリエイト』
静かにスキルを発動させる。するとこれまでの比でない数のスケルトンが次々と生み出される。4000、いや、5000はいるだろうか。多すぎて山のように積もっている。
これまでと異なるのはスケルトンの色が赤いことだ。どうやらレベルアップしたことでモンスターの体色も変化したようである。
赤スケルトンの山がキマイラロードに襲い掛かる。キマイラロードのフィールドに阻まれるが、赤スケルトンは明らかに黒スケルトンよりも強化され、消滅し難くなっている。そのまま赤スケルトンの波に押しつぶされそうになるキマイラロードは大きく後方へ飛ぶ。
キマイラロードは俺を睨み付け、初めて言葉を発する。
「・・・まさかこれほどの力を持つ人間がいるとは。時間切れだ。ここは退くべきだな」
そう言ってキマイラロードは魔王軍の中に消えて行こうとした瞬間、自身の体に激痛が走った。気がつくと、真紅のグレートハウンドが体に牙を食いこませている。キマイラロードが抵抗する間もなくトキワのグレートソードがキマイラロードの首を落とした。
――――――
援軍の編成を終えたアリ―シアが自ら西門にたどり着いたとき、目にしたのは1000あまりの魔王軍の全滅であった。例のキマイラは首が飛んだおりレグンド軍の完全勝利であることが一目瞭然だった。
もちろん勝利の功労者は明らかである。真紅のグレートハウンドにまたがった彼はその傷だらけの顔をこちらに向ける。その顔を見ればこの戦場がどれほど過酷なものであったか容易に想像がつく。
片目を失った西軍の将軍バルドがこちらに気付いてやってきた。
「アリ―シア様、わしらは、いやレグンド港町は彼らによって救われました。わしらはまさに『勇者』を目撃したのです。彼らは自らの危険も顧みず命がけでわしらをキマイラロードから守ってくれました」
「なんですって、キマイラロードですか!?・・・本当に彼らには救われたようですね。バルドもご苦労でしたね。敵の大将も討ったことですし、もう大丈夫です。後方でゆっくりと体を休めてください」
「はっはっは。片目をつぶされはしたが、この程度で引っ込むほど老いぼれてはいませんよ!最後までわしも戦いますじゃ」
アリ―シアは何も言わず老兵に敬意を示すと、高らかに宣言する。
「皆よく聞け!魔王軍の将はここにいる勇者の手によって粉砕した!もはや勝利は目前だ!」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
町中に大歓声が響き渡る。きっとこの歓声は東門で戦っているメイルハントたちの耳にも届いているだろう。アリ―シアは言葉を続ける。
「これより掃討戦に移る!援軍は反転して後軍と合流。その後全軍を持って魔王軍を殲滅せよ!」
アリ―シアは援軍を反転させると急いで東門へと急ぐ。その時援軍の横を赤い影が猛スピードで追い越していく。東門へ向かうトキワたちの後姿を見ながらアリ―シアの口元が自然と緩んだ。