36 レグンド港町の死闘④
全速力でグリフォンを駆けメイルハントはアリ―シアの元へと向かう。アリ―シアは丘から全体を指揮していたのですぐに見つかった。
「アリ―シア様!、すぐにお話することがあります!」
前軍の指揮を任せている将軍がわざわざ自らこちらへ向かってくるとは、ただ事ではない事態であることを即座に理解しアリ―シアの表情が引き締まる。
「なんだ、手短に報告しろ!」
「魔王軍のボス、キマイラが見当たりません!それもこちらにいる魔王軍はせいぜい3000ほどです。キマイラは1000の魔王軍を連れてどこかへ移動している可能性があります!」
アリ―シアははっとする。確かにこちらが優位に立ちすぎているとは思っていたし、想定よりも魔王軍の数が少ないとは思っていた。とはいえ正確な情報を持っているわけではなく、その食い違いに調べをだす余裕はなかった。
しかし、ボスが不在であるのはさすがにおかしい。大方キマイラと残り1000の魔王軍は戦いの最中森にでも隠れながらどこかへ向かったのだ。どこへ?・・・決まっている。レグンド港町だ。おそらく守りの薄い町の側面から襲撃するのだ。
「くっ!」
アリ―シアは臍を噛む。左右どちらから攻めてくるにしても、そちらに軍を送らなければならない送るなら町に最も近い後軍だが、この軍を下げると前軍と中軍が魔王軍に押し負ける。例えば、後軍の半数を割けるならば町の防衛に間に合うかもしれないが、この軍には小隊を編成する時間的余裕が無く、大隊の将軍がそれぞれ指揮をとるという非常に大雑把なつくりとなっている。これでは新たに指示を出そうとしても、指示が伝わるまで非常に時間がかかってしまい、とても防衛に間に合わない。
アリ―シアを含む全町民に戦争経験が無かったのもレグンド軍に大きな欠点を生んでしまった一因であることは確かだろう。アリ―シアはその美貌を悔しさでゆがめながらも思考する。
そのとき、町からの伝令が早馬で走ってくる。
「アリ―シア様、急報です!町の西からキマイラ含む魔王軍約1000が襲撃してきました!現在西軍の将バルド(B級冒険者、戦士)が何とか持ちこたえていますが、突破されるのは時間の問題かと思われます」
「西か!くそっ魔王軍め、東からわざわざ最も遠い位置で襲撃してくるとは。完全に虚を突かれてしまったということか」
メイルハントは悔しそうに言う。アリ―シアも同感であったが、その頭は状況を打開するためにフル回転していた。そして彼女の頭脳は一つの解を見つけ出す。
「メイルハント!全速力でトキワたちに西方に向かうように伝えろ!グレートハウンドの機動力なら魔王軍が突破する前に何とか間に合うはずだ!トキワたちが西方を足止めしてくれている間に私が後軍から援軍を寄越す!」
「承知!」
メイルハントはアリ―シアの命令を聞くが早いか全速力でトキワたちの元へ空を駆けていく。
アリ―シアも部下たちに急いで町へ向かう部隊を編成するよう指示を出しながら、同時に町にいる人々を急いで東方に避難させるようにも言う。
(トキワ、ナナミ、ルリリすまない。今は貴方たちだけが頼りだ。どうかレグンド港町を救ってくれ)