33 レグンド港町の死闘①
「魔王軍の匂いがどんどん近くなっていく・・・!」
ルリリが知らせる。俺たちは黒グレートハウンドに乗って昼も夜も走り続けた(俺が生みだしたモンスターは一日で消えてしまうので途中でまた生み出した)。俺たちが魔王軍に追いついたのは2日目の朝だった。遠くから見える魔王軍に俺たちは戦慄する。
「ガーゴイル、ハーピー、オーガまでいる!まずいぞ。ボードケイク町で見つけた死骸にはいなかったからてっきりゴブリン級のモンスターだけだと思っていたが、まさかあれほどの戦力が投入されているとは」
魔王軍は数にして5000ほどだろうか。前回のスケルトンの大軍よりは数が少ないがスケルトンよりも格段に強いモンスターばかりだ。そこらの町ではひとたまりもないだろう。
「これは急いでレグンド港町に行って対策を練らないとまずいわ!」
「ああ。だが見つからないように、道からは外れるが、少し迂回して回るぞ」
唯一救いだったのは魔王軍は数にして5000の大軍であったので速度は鈍重であった。軍を指揮しているのは見たところ中央で護衛達に守られているキマイラの様だ。俺たちは魔王軍を迂回してレグンド港町に向かう。
――――――
「見えた!あれがレグンド港町よ!」
一番先頭を走っていたナナミが目的地を見つけた。どうにか三日で到着することができた。魔王軍は行軍速度を考えても後1日は到着まで時間がかかるだろう。しかし、戦闘に備えるには時間がなさすぎる。俺たちはすぐに町の入り口に立つ衛兵に事情を説明する。どうやらボードケイク町が侵略されたことは既に知れ渡っていたようだ。俺達は町長に会いたいと衛兵に話す。
「冒険者が私たちに加勢してくれるのはありがたいが、悪いが今町長は忙しい。話ならまず町兵隊長に通してもらえないか」
「時間が惜しい。俺たちは道中、魔王軍を見ました。すぐに対策しないと手遅れになります。すぐに町長の元へ案内してください」
「そうは言ってもなあ、すまないが、いきなりよそから来た冒険者の情報にどれだけの信頼性があるかという話でもあるんだ。まずは町兵隊長に話を通してもらえないだろうか」
「くっ・・・!」
俺は思わず心の中で舌打ちする。緊急事態にそんな無駄な手順を踏んでいる暇はないというのに。いや、緊急事態だからこそ、無駄なことに時間をとられるわけにはいかない町長の情報の取捨選択は普段よりも厳しいのだ。衛兵も言ったが、よそ者C級冒険者の信頼性などその程度ということだろう。
仕方がない、と俺が町兵隊長に会えるように頼もうとしたとき、ナナミが袋からグレートハウンドの牙をとりだした。
「私たちは道中グレートハウンドの群れを倒しました。これはその証拠です。たしかグレートハウンドの群れ討伐の依頼はA級クエストに指定されていたはずです。私たちはC級冒険者で正式な依頼を受けたわけではありませんので報酬は受け取れませんが、討伐した証拠として牙を持ってきました」
衛兵は目を丸くする。
「た、たしかにグレートハウンドの牙だ。・・・つまりパーティの実力的にはA級冒険者と同等だといいたいわけだな?」
衛兵はうーんと悩む。C級冒険者とA級冒険者では社会的信頼性は全く異なる。A級冒険者は世界でも数えるほどしかいないため、その影響力は一般的な町長よりもはるかに大きい。衛兵も、これは考えなおしたほうがいいと思ったのか、町長への謁見を許可してくれた。
というわけで、俺たちは町長の元へ案内された。町長は、その役職にしては若い女性であり、質素な身なりながら気品の高そうな雰囲気を出している。気の強そうな顔つきで俺たちを値踏みする。
「ようこそ、レグンド港町へ。私はアリ―シア。この町の町長です。貴方たちが魔王軍の情報を伝えに来てくださった方ですね。」
「はい。私はトキワで、こっちはナナミ、ルリリです」
「早速ですが、貴方たちが見た魔王軍の情報について教えていただけますか」
俺たちは見たもの全てをアリ―シアさんに伝えた。
「オーガにキメラですか・・・。この町の戦力では不安ですね、既に近くの都市から援軍を要請してはいますが、到着まであと2日はかかるかと。今大急ぎで町中の兵力を結集していますが、数は8千と言ったところでしょうか。数だけは勝っていてもD級のハーピー、ガーゴイルやC級のオーガ、ましてB級のキマイラまでいるとなると守り切れるか・・・」
「俺たちも戦います。足止めなら、俺の能力はお役に立てると思います」
「あなた、グレートハウンドを倒したそうね。ずいぶんと若いけれどそれだけの自信があるのなら召喚士かなにかなの?もしそうなら戦力としてとてもありがたいわ」
俺は自分の職業とユニークスキルについてアリ―シアさんについて話す。アリ―シアさんはそれを聞いて仰天した。
「ゆ、勇者!?それに何なの、その能力は!もしそれが本当なら、私たちにも希望が見えてきたわね。・・・まずはあなたの能力が本当なのか確認させて頂戴」
疑ってしまうのも当然だろう。俺はスキルを使って一匹の黒ゴブリンを生み出す。アリ―シアさんはまたもや心底驚く。
「なるほど・・・!これはとても強力なスキルね。このスキルを使えばもしかしたら守り切れるかもしれないわ。ええと、そっちの子たちは戦えるの?」
「ええ、ナナミは魔法使いで、ルリリは変身能力を持ちます。でも、彼女たちは戦うわけではありません。アリ―シアさん。あくまでこの町に力を貸すのは私だけです。」
「・・・ごめんなさい。私が悪かったわ。あなたのスキルを聞いてついそっちの二人にも期待してしまったわ」
アリ―シアさんはすまなそうに言う。そこに、ナナミが割って入る。
「ちょっと、トキワ。勝手にわたしたちをのけ者にしないで。・・・わたしも戦うわ」
「ナナミ、本当に良いのか?」
先日ナナミが戦に向かうことを悩んでいたことを知っているから、少し不安になる。
「ええ。前に3人で、強い魔物の大群が襲ってきたときどうするのか話をしたときからずっと考えていたの。やっぱり、わたしは見ず知らずの人達のために命をかけて戦うことはできないわ。・・・でも、トキワやルリリちゃんのためならって思うと、戦えるわ。いえ、戦うわ」
「私もナナミちゃんと同じよ」
ルリリもナナミの言葉に同意する。
「そうか。二人とも、ありがとう。絶対に、3人とも生きのびるぞ」
「ええ!」「うん!」
話を聞いていたアリ―シアさんが言う。
「決めた!私の誇りに掛けて絶対にあなたたちを死なせないわ!そしてこの町は私たちがモンスターどもから守るわ!」
アリ―シアさんの言葉に周りにいる衛兵たちも一斉にうなずく。
「さあ!魔王軍を返り討ちにする作戦を練りましょうか!」