3 転生
さらさらとした風が草を撫で、柔らかな朝日がそこにいる生き物を優しく目覚めさせる。のどかで静かな朝だ。そこに一つの小さな村があった。その村にはごく普通の母と子が住んでいた。
「トキワ!そろそろ出発よ!」
「はい!今行くよ!」
どたどたと自宅の階段を降り、庭にいる母へと向かう。母はもう俺を待っていて怒り顔だ。弁当と一本のショートソードだけをもって俺は庭へと走って行く。
「今日はお父さんが帰ってくる大事な日なのに寝坊してどうするの、もう!」
叱られてしまったが、実際今日は母の言う通り特別な日である。俺の晴れ舞台を見に来るために父が冒険から帰ってくるのだ。
―――――――
今日で俺は18歳になる。あの転生の日から18年、俺は新しい第二の人生をスタートしていた。
この世界での俺の名はトキワ。貴族でないので性はない。黒髪蒼眼の両親のもと生まれ、一人っ子であったため親や親せきからとてもかわいがられた。
前世では優秀な兄の陰に隠れ、同じく優秀だった親から落ちこぼれの烙印を押され、いつしか厄介者扱いされていたから、親から愛されるのは本当に久しぶりで嬉しかった。
12歳になると、母から前世でいう算数、村の外の知識、簡単な歴史を教わった。時折冒険から帰ってくる父に武術や冒険術を仕込まれた。前世の記憶を持ったまま転生したため算数に限っては他の子と比べて格段に良くできた。そのため両親は俺のことを天才だと思っている。(もちろんそんなことはなく、前世で小学生や中学生で教わるような内容であっただけである)
俺自身の頭の良さは前世とそれほど変わっていないだろう。母や父から教わる知識を身に着けるのにはそれなりに苦労した。最も苦労したのはこの世界の言葉の習得だ。なまじ日本語を知っているせいだろうか、新しい言語を身に着けるのは逆に難しかった。しかしながら、何年もその言語の中に浸かっていれば何とか身につくものである。
話は変わるが、母によるとこの世界にはモンスターが存在するらしい。ランクの低いものではスライムやゴブリンなどがいて、村の外で独自の生態系を築きテリトリーに入った外敵を襲ったり、逆に自分から襲ったりするのだ。村は屈強な村兵隊が守ってくれているので、このようなモンスターが入ってくることはほとんどない。・・・ほとんどというのはまれにトロールが数匹食料を求めて襲ってくるためである。
トロール一匹なら村兵隊だけで対処できるが二匹以上になると倒すことは難しい。その時は兵隊は足止めに専念し、その間に村人が避難する。トロールが食糧庫をあさっている間に町の強い冒険者に討伐を依頼してもらうしかない。この世界のモンスターは一般的な人間と比べはるかに強いようである。
俺の父もこの冒険者の一人で、普段は町に住み冒険者として俺たちの生活費を稼いでくれている。この世界では冒険者は明確にランク分けされており、ランクが高いほど仕事に対する信用が高く、報酬も高い。一般に強い者ほど高いランクに上がりやすいが、特殊技能を持っていたりする高ランカーもいる。父の冒険者ランクはCで、母によると冒険者としては中の上くらいらしい。町の方が安全なので俺や母も一緒に町に住みたいところだが、町の地代は村の倍近くするとのことで、金に余裕のない俺たちは仕方なく父と離れて暮らしている。
父が帰ってくるのは一月に一度あるかないかだが、今日は特別に帰ってくる。なぜなら今日は俺の成人の日だからだ。この年になると町で成人になるための儀式が行われる。儀式では自分の適性にあった職業が覚醒する。
戦士、魔法使い、召喚士、精霊使い、格闘士、錬金術師、呪術師・・・etc
覚醒すると俺でもその職業の技や魔法が使えるようになる。例えば戦士なら身体強化され、魔法使いなら魔法が使えるようになる。これらの職業はあくまで大まかなものであり、戦士の使える武器の種類や魔法使いの使える魔法の属性は個人によって異なる。例えば魔法使いでも、炎属性が使えても、雷属性や氷属性を使えない、といった風である。
戦士に覚醒した人は傭兵や冒険者になる人が多く、魔法使いや精霊使いはやはり冒険者や、農家や商人になる人が多い。召喚士など少し珍しい職業になることができれば、どの業界からでも引っ張りだことなりほとんどそれだけで一生安泰といえる。
俺も今日その儀式を受けに行く。もうすぐ父が来るので一緒に馬車で町まで行くのだ。




