28 ニーリ町の英雄②
俺が目を覚ますと、もうすっかり日が昇っていた。昨日の戦いでスケルトンの数は半分以下に減っており、もう俺たちの勝利は確実だった。どうやら昨日の晩にも黒スライムたちは奮闘し、スケルトンたちの数を順調に減らしていったようだ。もう俺たちが戦わなくても、モンスターに任せておけば大丈夫だろう。
とはいえ、昨日作り出した黒スライムたちはもうすぐ消えてしまうため、俺はモンスターを作り出す。今日は黒スライム100体を町の防衛部隊とし、俺が今作り出せるモンスターの中で最も強い黒オーク100体を殲滅部隊として生み出す。これ以上無理をして犠牲を出す必要がないため、町の人たちにはモンスターは俺たちに任せて町の補修にあたってもらう。
外で戦う俺たちを見つけると町の人たちは歓声を上げた。昨日は住民の士気を上げるためにあえて『勇者』という存在を誇示したが、本当は居心地が悪いものだ。住民が俺たちを英雄扱いすることで、今も精神的な支えとなっていることは事実なので仕方がないが、スケルトンを退けたらすぐにこの町を発つことを決めた。
ともあれ、俺たちは町の入り口に押し寄せてくるスケルトンたちを確実に倒していった。俺たちがスケルトンを粉砕していくたびに、それを見た住民が歓喜の声を上げる。
「やっぱり数が多いと違うわね」
ナナミがスケルトンの群れを引き裂いていく黒オークの部隊を見て言う。たしかに、100体が数秒に1体ずつスケルトンを破壊していくので、みるみるスケルトンの数が減ってきている。
「でも、一人で倒した数は、ナナミが圧倒的に多いよ。さすがにレベルアップした魔法使いだけある」
「ありがとう。これだけスケルトンを倒したのだから、またレベルアップしないかしらね」
「スケルトン1匹が弱すぎるからね。経験値も小さいのかもね」
「そうね。次にまたレベルアップしたら、一発でこの群れを焼き払ったりできるのかしらね」
なんて物騒なことを言うんだ。と笑いながら徐々にスケルトンの数を減らしていく。ルリリもスケルトンの群れに入り、両手をグレートハウンドのものにして周りのスケルトンたちを次々と薙ぎ払っている。肉弾戦なので掠り傷が絶えないが、持ち前の回復力ですぐに治っている。
「トキワ、私ちょっと疲れてきた」
しかし、さすがにしばらく戦っているとルリリが訴える。
「分かった!町の入り口の黒スライムの陰で休んでいてくれ。ここは俺たちだけで十分だ」
俺も、(グレートハウンドとしては成人しているが)人の肉体としてまだ14歳である子に無理をしてほしくないのでルリリが後退してくれて少しほっとした。
10分ほど経った後ルリリが復帰して、日が暮れる前には、俺たち3人と黒モンスターたちでスケルトンを最後の1匹まで倒しつくした。
そのとたん町のほうから大歓声が上がって、町民が俺たちに駆け寄ってくる。
「「勇者!勇者!勇者!勇者!勇者!」」
町民の興奮は冷めやらず、その日の夜は祝勝会が開かれ、俺たちはその主役になった。英雄扱いは俺にとって居心地の悪いものだったが、町中の人たちから感謝されるのは嬉しかった。それに豪華な食事やうまい酒が振る舞われ、ありがたくいただいた。
次の日、俺たちは長居することなく旅を再開することにする。犠牲者の弔いが終わると俺たちは町人たちに感謝されつつ、ニーリ町を後にした。
俺たちがこの道をすすんでモンスターの群れを倒していく限り、少なくともこのような大規模なモンスターの侵攻はニーリ町には起きないだろう。
俺は旅を再開しながら、先日の白装束の女を思い出す。彼女は結局何だったのだろう。今回のスケルトンの襲撃と関係があるのだろかと。
――――
後日、ニーリ町には一つの英雄譚が生まれたが、トキワたちはそのことを知る由もなかった。