27 ニーリ町の英雄①
町長はいらいらしたように自身の、白いものが混じった髪を無意識にいじる。
「2日前、突然のことです。首都から派遣された兵士が、大量のモンスターが世界中の町へ攻め入っていることを告げました。モンスター達は北方から南方へ進み、既にいくつかの町と村は壊滅したが、多くの住民は近くの大都市へ避難したそうです。南方に通じる道の中央に位置するこの町にモンスターが来ることは確実でした。ゆえに私たちは大急ぎで町の補修とバリケードを固めましたが、まだ完全に準備が整う前にあのスケルトンどもが私たちの町へ攻め込んできました」
町長はそう言って瞼をとじる。口元が震えている。俺達がこの町に来るまでに、多くの犠牲者が出たらしい。本人も、よほど恐ろしかっただろう。
「勇敢な冒険者たち、あるいは職人たちでさえこの町を守るために戦いました。私だって、昔は格闘士の端くれでしたから、この拳で何匹か葬ってやりましたとも。しかし、あまりにもスケルトンどもの数が多く、次第に犠牲者が増えていきました。弱くとも、疲れも恐れも知らないスケルトン相手に多くの勇敢な若者たちが私たちのような老人の盾となって亡くなってしまいました」
町長の声が震える。俺とナナミも俯く。ルリリだけは町長の話を静かに聞いていた。
「すみません。身勝手なお願いであることは承知の上です。どうか、どうか私たちと共に戦ってくれませんか・・・。この期に及んで貴方のような若い方に戦ってくれだなんて恥知らずもいい所なのは十分わかっているつもりです。私のことはどんなに罵られてもかまいません。しかし、それでも・・・・・・今現れた『勇者』に、わたしは町長として、この町を救ってくれるようお願いせずにはいられません」
町長の涙ながらの訴えに、俺は迷いなく心を決めた。ナナミとルリリの方を見ると、二人とも同じ気持ちのようだ。
「町長。私たちはあなたたちの味方です。微力ながら力添えいたします」
その言葉に、町長は涙ながらに何度も感謝を述べた。
――――――
「くそっスケルトンどもが黒いスライムたちに群がってやがる!スライムのコアが破壊されるぞ!」
町兵団員が叫ぶ。その言葉通り、入り口を守っていた黒スライムの最後の一匹がスケルトンたちの波にのまれ、消滅してしまった。
途端にスケルトンの波が町門のバリケードに殺到した。先ほど補修したといえど、バリケードが破られるのは時間の問題だろう。まだ学生である男子少年たちが槍を持って戦闘に備えている。彼らの教師は既にスケルトンの犠牲になってしまったという。学生たちは総じて暗い顔をしている。
大人たちも、このまま自分たちは死んでしまうのかと諦めにも似た表情で、それでも町を守るために働く。彼らの心が折れるのが早いか、バリケードが破壊されるのが早いか、どちらにせよニーリ町の滅亡は確実であった。
その時、町門にて一人の男が声を上げた
――――――
「あきらめるな!!!」
俺は声を響かせる。皆に、町中の皆に届くように。
「俺は『勇者』だ!!この町を救いに来た!!俺が居る限り、絶対にこの町はモンスターなどに負けたりはしない!」
そう言って、俺は大いに自らを衆目に晒す。俺という存在が、皆の希望となるように。皆の心にわずかでも光が灯るように。
俺は叫んだ
『モンスタークリエイト!!』
なぜか今までになく力がみなぎってくる。今ならどんなに多くのモンスターでも呼び出せる気がする。町の外に突然300体ものスライムたちが出現したかと思うと、スケルトンの波を押し返した。スライムたちはその流体の体をまるで一つの生き物のように連動させ、まるで、大津波のように一気にスケルトンを粉々に粉砕する。
その光景に町中の人達が大歓声を上げる。さすがに多くのモンスターを生み出しすぎてたようで俺の体力もかなり危ないが、それでも黒スライムたちを盾にしながらスケルトンを倒していく。ナナミとルリリもそれぞれ多くのスケルトンを退治している。特にナナミの魔法は一度にたくさんのスケルトンを粉砕し、圧倒的な活躍を見せた。
俺たちの戦いぶりに鼓舞された町兵隊たちも、俺たちと一緒にスケルトンに立ち向かう。次第にスケルトンの数は減っていき、町のまわりにはスケルトンたちの骨が山のように積みあがった。
しかし、あまりにもスケルトンたちの数が多く、日が暮れるため一旦撤退をすることにする。黒スライムたちを全て入口の前に配置する。これだけの数の黒スライムならば今度はそう簡単にはやられないだろう。
俺たちと町兵隊たちは帰還すると町人からの大歓声に迎えられ、俺は力を使い果たしてすぐに泥のように意識を失った。