26 スケルトンの襲撃
厳重な警戒態勢で森の中に入っていく。こう大人数だと弱いモンスターは俺たちに近づきもせず、俺たちは楽に移動することができた。
「もうそろそろ森を抜けるはずよ」
ナナミが地図を見ながら言った。ナナミの通り、森が薄くなり始めている。すると、ルリリが突然口を開く。
「・・・なんだか先のほうから焦げ臭い匂いと声がするわ」
「なんだって!?どういうことだ?」
俺たちは急いで森を抜けた。俺たちは遠目にニーリ町を視界にとらえる。先ほどは木々で気付かなかったが、黒煙がニーリ町の方から漂っている。それとともに俺にも肉の焦げたような匂いと喧騒が聞こえてくる。
ニーリ町を囲むように黒い集団が展開している。ガシャガシャと音を立てながらうごめいているそれらはよくみると人の骨であった。あれは・・・スケルトンだ!
スケルトンはE級モンスターである。単体では『最弱』と呼ばれるほど弱いモンスターであり、その戦闘力は職業を得ていない男性と同程度である。しかしながらF級モンスターであるゴブリンやスライムよりも位が上なのは、スケルトンは常に集団で行動し、時に100匹以上の大集団で旅人を襲うためである。それにしても、あれだけの規模は聞いたことがない。20000匹?いや、30000匹はいる。ニーリ町の人口規模は10000ほどなので、人口の3倍ほどのスケルトンが町を襲っている。
町の入り口にはバリケードが張られ、かろうじて数の差に持ちこたえている。しかし既に多くの犠牲が出ているようで、町の外には戦って敗れた戦士たちの死体がころがっている。
「すぐに助けに行かなきゃ!」
とナナミが言う。当然だ。俺は疲労で動けなくならない程度に、モンスターの軍勢を形成する。
『モンスタークリエイト!』
俺は黒スライムを120体生み出す。黒スライムは体が大きく、物理攻撃に強いためスケルトンから俺たちを守る壁とする。
「行くぞ!」
俺たち三人は黒スライムを紡錘陣形で配置し、スケルトンの群れに突撃した。ナナミが呪文を唱える。
『わたしの血、わたしの魂よ、荒れ狂う炎の怒りとなりて敵を吹き飛ばしなさい!業火竜!』
途端に業火の竜巻が前方に突進し、カーブを描きながら大きく周囲のスケルトンの集団をえぐる。この隙に、黒スライムは、その強化された身体能力を遺憾なく発揮し、スケルトンを蹴散らしてゆく。俺たちは町の入り口まで来ると、前方の黒スライムを側方へ広げ、入り口の門のまわりに黒スライムたちでふたをするように配置する。すると門の上から町兵隊であろう男が顔をだして言う。
「君たちは何者だ?見たところ魔法使いと召喚士のようだが。とにかく、早く中に入りなさい!」
そう言って男は門の上からロープを投げた。俺たちはすぐにロープを伝って町へ入った。町兵隊員の男に事情を説明する。キリ町から来たこと。森を抜けたら町がスケルトンで囲まれていたので助けに来たこと。俺の能力のこと。
町兵団員は俺が勇者であることを聞くと、驚いていた。
「君が、今年勇者の職業になったという噂の男か。魔法使いの嬢さんも助かったよ。ありがとう。良ければ町長に会ってはもらえないだろうか」
俺たちも、町の詳しい事情を聞きたいと思ったので、町長のいるところへ案内してもらった。黒スライムは入口のところでそのまま配置しておく。とりあえずしばらくの間は持ちこたえるはずなので。この間に入口の兵士たちがバリケードの補修をしたり、休息をとれるはずだ。
俺たちは、大きな建物の中に入った。どうやらここは学校のようだ。さすが、教育が盛んな町だけあってキリ町のものよりも大きくてきれいなものである。町長はその一室で不眠不休の対応に当たっていた。
「おお!あなたたちが先ほど炎の竜巻や大量の黒いスライムでスケルトンをやっつけてくれたという方々か。町を代表してお礼申し上げる」
さっきの戦闘はさすがにもう町長の耳には入っているようだ。案内してくれた兵士が町長に俺たちのことを報告する。
「なんと!キリ町にいるという噂の勇者とはあなたのことですか!これもガブリエール神のご加護ですな」
町長は驚きの声を上げた。
「教えてください。一体どうしてニーリ町がこんな状況におかれているのですか?」
町長は顔を曇らせて、語り始めた。