25 白装束の女
「ナナミ!ルリリ!起きろ!」
俺は叫ぶ。本能的に、あの女は危険だと悟った。二人とも飛び起き、すぐに森から見知らぬ女が近づいてくるのを見て状況を理解する。そうしている間にもゆっくりと、ゆっくりと白装束の女がこちらへ向かってくる。ナナミは慌てて言う。
「ト、トキワ!あの女はだれ!?」
「わからない。森から出てきたんだ。だが、なんとなく、あの女は危険な気がする」
白装束の女を見ていると、なんだか心のそこから不安と恐怖が沸き上がってくる。
「・・・そうね。少なくとも普通の人じゃないのはわかるわ」
「魔物・・・?いや、少し違うわ」
ルリリも警戒心を顕わにし、真紅の目を見開いている。
「黒ゴブリン、あの人の動きを止めろ!」
俺は黒ゴブリンにあの白装束の女を拘束するよう命令する。黒ゴブリンたちは俺の命令を遂行するために女に殺到するが、女に触れた瞬間、黒ゴブリンたちは発狂したように突然味方同士で殺し合いを始める。中には叫び声を上げて地面を延々とえぐったり、大地に転がり続けるものもいる。
白装束の女は構わずこちらにゆっくりとゆっくりと近づいてくる。黒髪が顔にかかってその表情は読めないが、女が笑っているような気がした。
「逃げるぞ!」
俺が撤退の判断をする。ナナミが呪文を唱える。
『わたしの内に眠る力よ業火となりてわたしのの剣となりなさい!炎撃!』
レベルアップしたナナミのフレイムボールが女を直撃する。
「今のうちに!」
俺たちは手荷物だけ持って走る。白装束の女はフレイムボールにまるでダメージを受けた様子もなくゆっくりとこちらに近寄ってきている。俺はいよいよ身の危険を感じ、ナナミとルリリと一緒に走り続けた。
しばらく走って振り返るといつの間にか白装束の女は消えていた。俺たちはその夜は日が明けるまで警戒しつつ、そこで休息をとった。いつ暗闇からあの白装束が現れるのかと俺たちは3人ともその日は眠れなかった。
太陽が地平線から顔を出した後、俺たちは昨日野宿した場所へと恐る恐る戻ってみた。そこには俺たちの荷物がそのまま残されており、あさられた形跡はなかった。白装束に触れて発狂したモンスターはみな絶命したのか、消えていた。モンスター達が互いに争った跡だけが大地に残されており、昨日の女の不気味さがより一層増す。
「なんだったんだろう。昨日の女は」
「わからない。わたし、本当に怖かったわ。思い出すだけで震えてくる。あの時逃げていなかったらどうなっていたことか」
「ただの人間じゃなかったわね。気配が、今まで感じたことのないものだったわ。理性のある魔物ならみんな逃げ出したでしょうね。あの女は危険すぎるわ」
「そうだな。今の俺たちはあいつに対抗する術を持っていない。次にもしあいつに会うことがあればすぐに逃げよう。とはいえ、迂回したいところだがライトブロードへ行くにはこの森に入らないわけにはいかないから索敵を十分にするしかない」
「そうね。こういうとき、あなたのモンスタークリエイトがあって本当によかったわ」
「私もこの鼻で周囲を警戒するわ」
「ああ、ルリリも何かあればすぐに伝えてくれ」
俺たちは森に入る。俺は黒ホーンラビット10体を扇状に展開させ、5体に後方を警戒させる。また20体のゴブリンを5体ずつに分け一つの小隊とし、それを四方に分散させた。
これで異常があればすぐに見つかるはずだ。