24 旅の始まり
次の日、ナナミ、ルリリとともに俺たちは旅に出た。ダイダイヤ伯父さんとゴーホさんが俺たちを見送った後、ナナミが話しかけた。
「トキワ、とりあえず予定通りライトブロードへ行きましょう。わたしたちは魔王に挑むには足りないわ。力も、お金も、知識も何もかもね」
「ああ。まずは王都に行く。道中で仕事をこなして旅費を稼ぎながらの旅になるだろう」
「旅の計画はどうかしら」
「そうだな。昨日ざっと計算してみたが、移動速度と食料を考えると次の目的地はニーリ町になりそうだ」
「ニーリ町?」
ルリリが尋ねる。
「山に囲まれた町よ。教育機関が発達していて国中のエリート候補が集まる場所ね」
「ふーん。二人は言ったことあるの?」
「俺はないな」
「わたしも。未成年の子はよほどのことがない限り、町と町を移動したりしないものよ」
「そうなの。人間の町なんてあまり行きたくないけれど、キリ町の他の町がどんな場所なのかは興味あるわ」
俺たちはそうこうしているうちにキリ町周辺からどんどん離れていく。これからは三人とも未知のエリアだ。どんなモンスターが襲ってくるかわからない。十分に注意しながら進まなければならない。俺は索敵として黒ホーンラビットを生み出し周囲を警戒させた。
しかしながら、歩いていて襲ってくるのはスライムやゴブリンばかりであった。ルリリの話の通り、弱いモンスターほど彼らの住む土地を求めて人里に進出してきているということなのだろう。俺やナナミがそいつらを倒していると、ルリリが俺に話しかける。
「ねえ、私も戦うわ」
と、ルリリは前に出てゴブリンと戦う構えを見せる。危ないんじゃないかと俺が言う間もなく、ルリリはもうゴブリンへ突進していた。人間のだせるスピードをはるかに超えて猛スピードの黒塊となってゴブリンの傍をすりぬけたかと思うと、ゴブリンの体は大きくえぐられ絶命していた。みると、ルリリの腕が少女のそれではなくグレートハウンドの巨大な前足となり、ゴブリンのものと思われる返り血がかかっている。ルリリはそれをぺろりと舐めた。ナナミが驚いている。
「すごい!ルリリちゃん強いのね」
「まだ本気じゃないわ。このあたりの魔物には絶対に負けないわよ」
どうやらルリリの心配は全く必要ないようだ。仮にけがをしたとしても即死でなければグレートハウンドの回復力があれば問題ないだろう。
「それでも無理はしないでくれよ。俺たちはパーティなんだから、3人で戦えばいいんだ」
俺がそういうと、ルリリは照れくさそうにした。
「うん、そうね。群れにいたころはあまり協力して戦うことはなかったけれど、トキワとナナミちゃんと一緒に戦うのはきっと心強いでしょうね」
しばらく道を歩いて行くと、ニーリ町へ続く森が見えてきた。
「この森を抜けてしばらくするとニーリ町だ。日も暮れるから、今日は森に入らずここで野宿しよう」
と俺が言う。森と比べて平地の方が野宿しやすい。なぜなら森は外敵の接近に気付きにくく、強いモンスターが多いからである。
「そうね。じゃあ、わたし料理を作っているからトキワとルリリちゃんは薪をとってきてちょうだい」
ナナミはそう言って食事を作る準備をしている。俺は森へ薪をとりに入る。といってももちろん入るのは森の入り口までで、呼べばすぐに声が届く距離だ。ルリリも俺についてくる。俺は念のためにモンスタークリエイトで黒オークを2体ナナミの護衛に付けて、俺自身も黒ゴブリン5体を護衛にしておく。
俺、ルリリ、そして黒ゴブリンのうちの2匹は薪集めをした。一泊するには十分な量が集まったのでナナミの元へ帰った。
食事が終わると、俺が最初の不寝番をすることになった。といっても、モンスタークリエイトで索敵に黒ホーンラビット、護衛に黒オークを生み出しているから、モンスターに襲われる心配はあまりしていないので、普通の旅人よりも精神的にずっと楽な気持ちでいた。交代の時間が来るまで俺は星々を眺めていた。
その時、ふと、森の方から何かの気配を感じた。暗い中、入口の方を注視していると、森の中から白装束の長い黒髪の女が現れた。