23 星の瞬き
俺たちは明日旅に出る。俺はダイダイヤ伯父さんにそれを言わなければならない。夕食を囲んでルリリと話している伯父さんに、俺は話を切り出す。
「ダイダイヤ伯父さん。俺、ナナミと出稼ぎに出ようと思うんだ」
ナナミと話し合って、俺たちはあくまで出稼ぎのために旅に出ることにすることにした。本当のことを話すわけにもいかない。ダイダイヤ伯父さんは尋ねる。
「そうか。どこへだ?」
「王都ライトブロード」
「なるほどな。まあ、出稼ぎならあそこが一番だろうな。いつ帰ってくるつもりだ?冬までには帰ってくるだろう?」
何も知らない伯父さんはいつもの調子だった。それに俺の良心は痛んだが、平静を装って話す。
「いつ帰るかは分からない。おそらく長い間留まると思う」
「そうか・・・。」
と、伯父さんはさみしそうな顔でそう言った。伯父さんはそれ以上何も聞かなかった。俺はそんな伯父さんに感謝した。しかし、これも言わなければならない。
「ルリリも連れていこうと思う」
「なに!?ルリリは子供だぞ。モンスターに襲われたらどうするんだ!」
「ルリリが行きたがってる。俺たちが必ず守る」
俺はきっぱりと言う。
「俺のお父さんだって、小さいころ俺をこの町に連れてきてくれたことがあった。今の俺はお父さんと同じC級冒険者だ。それならルリリをライトブロードへ連れていくこともできるはずだ」
「キリ町周辺のモンスターとライトブロード周辺のモンスターは危険度が段違いだ。・・・それにそのレイモンドとエリーさんが、ここに来る途中、お前をかばってグレートハウンドにやられたんだろうが!」
ガッ!
ダイダイヤ伯父さんが机を叩く。同時にルリリが俺を見てハッとした顔をする。しまったと思ったが、今は説得が先だ。
「俺もナナミもC級冒険者だ。それもまだまだ強くなる。お願いだ。ルリリは俺たちが命に代えても守り抜く。どうか俺たちの旅を許してほしい」
俺は頭を下げる。両親が殺された俺を今まで面倒を見てくれ、今、旅の目的さえ偽って俺は勝手なお願いをしている。少し俯いていたルリリもダイダイヤ伯父さんに訴えかける。
「お願いします。トキワがいなければ私はこの町に滞在することはできません。止めても行きます。どうか私たちの旅を許して下さい」
伯父さんは顔をしかめて黙り込んでしまう。長い沈黙の後、口を開いた。
「レイモンドはな、あいつが22歳の時、まだE級冒険者だった癖に突然旅に出るとか言って2年間どこかへ行っちまった。連絡一つもよこさないで、俺はてっきりもうあいつは死んじまったんじゃないかと思ってた時にな、ひょっこりエリーさんを連れて帰ってきたんだ。なんとC級冒険者になってな」
懐かしむような、さみしがるような口調で言葉をつなげる。
「エリーさんのおなかには、トキワ、お前がいたよ。今思えば妊婦に旅をさせるなんてと思うが、まあ、生まれちまったらしばらくそこで暮らさないといけないからな。レイモンドは生まれ故郷のチュウ村で、お前と一緒に暮らしたかったんだろうな」
伯父さんはそこまで言って、一呼吸する。伯父さんの目がきらりと光ったような気がした。
「トキワ、いつでもいい。ひょっこりと、レイモンドのように、あいつの息子なら帰って来い」
伯父さんはそういうと、話は終わりというように席を外した。俺は伯父さんに何度目かの感謝の言葉を心に刻む。
「トキワ・・・」
ルリリが俺の顔を見る。その目は驚きと悲しみと不安が混じっている。
「・・・グレートハウンドのことなら本当だ。俺の家族はおそらくルリリの仲間に殺され、俺も殺されかけた。ルリリに余計なことを考えて欲しくなかったから今まで言わなかった。済まない」
「・・・どうして私を助けてくれたの?」
「・・・正直に言えば、もしも最初にルリリを見つけた時グレートハウンドの姿なら迷わず殺していたと思う。ルリリが俺の両親を殺すのに手を貸していたら、やはり殺していたと思う。・・・今でもグレートハウンドは憎くてしかたないよ。でもルリリ自身に罪がないことは分かっている。それに今の俺はルリリが大好きなんだ。ルリリに対して、憎い気持ちは欠片も持っていない。それは信じてくれ」
「・・・私、一生をかけてあなたに尽くすわ」
「そんなに深く考えなくていい。これまで通り、普通に接してくれ」
「・・・うん」
星々がキリ町を照らす。その瞬きはさながら人々の心を映すかの如く輝き、若者たちはその心に星を映して眠る。