22 勇者のパーティー
「やっぱりC級ともなると難しそうな仕事も増えるわね」
ナナミが掲示板を見ながらつぶやく。彼女の言う通りだ。F級の時はほとんどが非戦闘の依頼で、戦闘するものでも、ホーンラビット討伐のような害獣レベルのモンスターの討伐であったが、C級の依頼はモンスター討伐の方が多い。
「ふむふむ、『ゴブリンの群れ討伐』、『オークの群れ討伐』、また『ゴブリンの群れ討伐』、『精霊赤草の採集』、・・・『ゴブリンの群れ討伐』。・・・ゴブリン多すぎじゃないか?」
「最近になって急にモンスターが増えたみたいよ。どこも人手不足みたいね」
とナナミが言う。グレートハウンドがこのあたりにいたのも何か関係があるのだろうかと思ったとき、ふとここに事情を知っていそうな人物がいることに気付く。周りの人に聞こえないように聞いてみる。
「ルリリ。どうしてグレートハウンドがこんなところにいたんだ?グレートハウンドはもっと山奥か、別の地域にしかいないはずだ」
ルリリはその赤い目を恐怖の色に変え、俺たちに語った。
「うん。私たちはもともと、ここよりずっと北方に住んでいて辺りの弱いモンスターを狩って暮らしていたの。でも、最近先代魔王が亡くなって新しい魔王が生まれたの。そいつは穏健な先代と真逆で好戦的なの。『弱肉強食』、『強者が正義』を標榜し、それに従わない先代派の重鎮は皆殺しにされたわ。死体を串刺しにして晒し上げたと聞いてモンスターたちはみな震え上がったわ」
想像以上に重要な情報に俺たちは緊張する。ルリリは続ける。
「私たちがもともと暮らしていた土地も、サイクロプスに乗っ取られたわ。私たちや、私たちより弱いモンスターは人間の領域に出ていくしかなかったの。ゴブリンやオークの被害が多いのはそのためだと思うわ」
俺たちはそれぞれ考え込んだ。魔王の世代交代。魔王の性格。ここのところモンスターの被害が多い理由。この少女の語る全ての情報が、人間にとって重要極まりないものだった。
「・・・トキワ、この話を町兵団に報告するべきかしら」
ナナミが俺に尋ねる。ああ、もちろん町兵団と言わず、人間の住む国という国全域に広めるべき情報である。ただ、ナナミが、そして俺もためらう理由は同じところにあるだろう。
「たのむ。それは止めてくれ」
その理由。それはルリリである。
「もし俺たちがそれを報告するなら、ルリリのことを話さざるを得なくなる。そうするとルリリの正体が知れ渡る。国はルリリをどうするか、まず間違いなくルリリは俺たちから引き離されて権力者に利用されるだろう。どう扱われようと、モンスターであるルリリは必ず不幸なことになると思う。・・・俺は見ず知らずの大勢を救う代わりにルリリを犠牲にするのはいやだ。俺が間違ってるのはわかってる。それでも、ルリリにこれ以上不幸な思いはさせたくない」
ナナミは優しく頷いた。ルリリの手をそっと握る。
「・・・うん。さすが勇者ね。わたしも同じ気持ちよ」
「俺は、旅に出ようと思う」
「旅?」
ナナミとルリリはきょとんとする。
「俺は魔王を倒しに行く」
「はあっ!?」
「えっ!?」
「俺は今聞いた魔王の情報を人間に伝えることをしない。それは人間に対する裏切りだ。だからこそ、責任をとって俺が魔王を倒すんだ」
―お父さんやお母さんのような犠牲を二度と出さないように。
「それが、俺のけじめのつけ方だ」
「わかったわ。わたしも一緒に行く」
ナナミはまっすぐ俺の目を見てそう言った。
「ナナミ、俺は君を連れていきたくない。本当に危険な旅なんだ。ゴーホさんと長い間離れることになるんだぞ」
「危険ならトキワも一緒でしょ。同じくらいの強さなんだから。パパと離れるのはさみしいけど、ちょっと独り立ちが早くなっただけよ。トキワ、わたしも連れていって。わたしたち、パーティで、恋人でしょう!」
「私も連れていって下さい。トキワがいない町に留まる意味もありませんから」
しばらく危険だと二人を説得するも、二人の強固な意志に折れ、最後には三人で旅に出ることになった。ここに、魔王を倒すための、まさに勇者のパーティーが誕生した。