21 ルリリ
「ただいま」
俺はダイダイヤ伯父さんの家に帰った。伯父さんも仕事から帰っていたようでそこにいたが、背負っている少女の姿を見て驚いていた。
「トキワ、なんだその子は?」
「ああ、平原に倒れていたところを俺が保護したんだ。家族がモンスターにやられたらしい。しばらく俺が保護しようと思う。この子の分の食い扶持は俺が払うよ」
あらかじめルリリと話し合い。ルリリの家族はモンスターに殺され、天涯孤独の身であるということにしてある。
「ばかやろう!お前が金の心配なんかするなっ。嬢ちゃん一人の面倒をみるくらい平気だ。・・・それより嬢ちゃんは大変だったな。どうだ、おじさんに名前を教えてくれないか」
「・・・ルリリ」
俺の陰に隠れてルリリは言った。人間に慣れていないのだろう。
「そうか。ルリリ、おじさんはこれからご飯をつくっておくからルリリはその間に風呂に入りな」
伯父さんは優しくいって厨房へ消えていく。俺はルリリに風呂の場所を教えて、シャワーの使い方を教えてから急いでナナミのところへ服を借りに行った。
―――――
「グレートハウンドのファントムモンスター!?トキワ、よりにもよってあなたが、あなたはその子を助けて・・・ご両親のこと・・・何も、感じないの!?」
事情を聞いたナナミは悲痛な顔でそういった。
「もちろん、正直少しは思うところはある。俺にとってグレートハウンドは憎い敵であり最も怖いモンスターだ。でもな、俺はあいつ自身には恨みも恐怖もない。あいつ自身、人間を食べないようだからおそらく俺の親を襲った中に、あいつはいなかったはずだ。それにファントムモンスターだから箱入りで育てられていたはずだ」
「うん、そうなのね。・・・トキワがそういうのだったら、私は何も言えないわね」
「それと、ルリリには俺の両親がグレートハウンドに殺されたことを黙っていてくれないか。あいつは群れから追い出されて、今本当に心細いと思う。だから、俺はあいつの味方でいたいんだ。ルリリには、余計なことを考えてもらいたくない」
「・・・わかったわ。優しいのね。・・・だからわたしはトキワのことが好きよ」
ナナミからお古の服を借りて、風呂場の前に着替えを置いておく。中から、ルリリが生まれて初めてのシャワーにはしゃいでいる声が聞こえた。
ダイダイヤ伯父さんはその日は気合の入った料理を俺たちに振る舞ってくれた。空き部屋がないので、ルリリは俺の部屋で寝ることになる。
夜、俺とルリリはベットで添い寝した。うとうとと、俺の意識が途切れようとしているとき、ふと隣のルリリが声を押し殺して泣いているのに気付く。家族から、群れから命を狙われるということが、どれだけ怖かっただろう。一人ぼっちの心細さはどれほどだったろう。俺はルリリの頭を優しく撫でた。
――――――
次の日、俺はルリリとともにナナミの待つ「剣と杖のロンド」に向かう。ルリリはギルド員ではないが、ギルド員でない者はその者が依頼を受けることはできないが、ギルド内へ入ることは自由である。
いつもの大広間にナナミが待っている。まずはナナミにルリリを紹介した。
「ルリリちゃんね。わたしはナナミ。あなたのことはトキワから聞いているわ。これからよろしくね」
「よろしく・・・お願いします。えと、ナナミちゃん」
ルリリはぎこちない様子でナナミに挨拶する。もう一つ、これは俺から言っておかなければいけないだろう。
「ルリリ、すまない。実はナナミには君の正体を話してある。これから一緒に仕事するのに隠してはおけないからな」
「・・・そうなの。分かったわ。私こそトキワに迷惑かけてるね。ごめんなさい」
以外にもルリリは勝手に正体を語ったことを怒らなかった。逆にこちらが気を遣われてしまった。そのとき、ナナミがルリリに抱き着いた。
「かわいいいーーー!なんてかわいいの!これはトキワが連れて帰るのも無理ないわね!ぐっじょぶよ!トキワ!」
あ、あれ?ナナミさんが壊れた?突然抱き着かれてルリリは戸惑っている。
「ナ、ナナミちゃん、くるひぃ~」
しかしナナミはルリリに抱きついたまま離れず、そのまま俺の方に顔を向けた。
「ところで、トキワ、ルリリちゃんも一緒に仕事するの。危険じゃない?」
「それは心配ないんじゃないかな。B級モンスター以上の力は持っているはずだから、むしろC級冒険者の俺たちより強いかも」
あっとナナミもルリリの正体を思い出す。見た目の可憐さについルリリがグレートハウンドであることを忘れてしまったようだ。
「あっそうか。なら大丈夫ね。じゃあ、早速仕事を選びましょうか!」